この仕事は、兵士より重たい
お姫様達が行ってから、天幕やテーブル、ソファーなんかを準備して朝食にする。
兵士達の骸に囲まれて、ゆっくり過ごすのも大物感が出て良いかもしれない……。な訳ないよね。骸じゃないよ、生かしてるからね。
連れて行けよ、ほってくなよ。
町の外側を眺めながら食べるけど、乾いてるなぁ。遠くに林が見えるけど、ずっと不毛な大地が続いてる。
アンは無事にマスチペに着いただろうか? あっ、ミネルバに気をつける様に言ってなかったなぁ。まぁ、命に危険は無いからいいけど。
暇だし雨雲でも出してみるかぁ。
幸いと言うか、アイテムボックスには泥水が大量にある。ずっと前の大雨の時に洪水を治めるのに入れたんだよね。水を出しながら水蒸気に変えて、冷やして雨雲を作る。元になる水分があって仕組みが解っていたら、大した魔力は必要ない。
明るくなると大量の人々が雨に向かって行って、打たれて喜んで、女性達までも裸になる惨状。
大地が潤う様子はまったくないし、いたたまれなくなったので、深さ一メートルと深さ三十センチの巨大プールを作る。浅いプールには滑り台もいくつか作くったんだけど、その後はプール監視員の職務に忙殺される事になる。
「靴は脱げー」「水飲むなー」「走り回るなー」「寝ころぶなー」
多少のいかがわしいスキンシップは普通の様なので見逃すけど、行為は他所でやれっ。迷惑な口説きなぞももってのほかだ。
「お前等……、切り落とすぞ」
占有を告げる偉そうな人や兵士には力ずくで対処して、交代でプール監視員の任を言い渡す。
子供の溺死と暴行さえなければ、みんなで自由に使えば良い。
「あのー、賊様?」
「あぁ、早かったね。 どう?」
また何か来たと思ったらお姫様の御一行だった。
昼は過ぎてるけど夕方と言うにはまだ早い。
プール監視員は忙しいのだけど?
「この様な場所に水浴び場を……、信じられません」
「水が恋しかったんだね。 楽しそうで良かったけど、みんなを抑えるのが大変だよぉ」
「賊様は女性なのですね?」
「まぁね。 話だね? 兵士達を監視員に廻せる?」
「はい」
ブーツは脱いでるから、脚だけでも性別は判る。男性を感じるほど大きくもないしね。
プール監視員の責務を熱弁して、個々に決意を確認してから送り出す。水は数センチでも人は死ぬ。この仕事は兵士より重いのだ。
パラソルとビーチチェアを並べて、ウェイアールに促す。脚を伸ばして座る姿は、彼女はとても絵になるのだけど、unknownにはまったく似合わない。
ノンアル酎ハイ風飲料を一緒に出してたんだけど、彼女は無警戒に口に運んで楽しそうに興奮して目を大きくしている。何も考えずに口を付けたなら、大問題だよ? わかってる?
プールで楽しむ人々を見ながら、早く入りたいと話すのだけど、今はそんな状況ではないよ。別に良いけど。
「で、どうだった?」
「申し訳ありません。 今しばらくのお時間を頂きたいのですが?」
「ボクは早く帰りたいのだけど? 時間があれば、何か変わる?」
「皆、考えております」
「何も難しい事は言ってない。 国の為にその地位から退けと言ってるだけ。 どれだけ待っても同じだと思うよ」
「お願い申し上げます」
「はぁ。 この国に期待はもうないから、ボクは君に決断を求めるよ。 元老院の解散は決定事項。そして君か君が任せられる人間が王になる。 わかった?」
「それには様々な問題が……」
「なら、滅びるしかないね。 もし、障害があるなら、ボクが排除してあげる。 期限は、明日の日没まで」
「しかし……」
唇を指で塞いで、まっすぐに彼女の瞳を見据える。
「ボクは、そんなに暇じゃない」
「はい……」
「そして、聖人、君子でもないっ。 仕事に戻るよ」
不安を隠せない彼女を残して、監視員の仕事に戻る。さてさて、がむばれお姫様。
「お前等、真面目に働けよ。 女性ばっかり見てんじゃねーわ」
日は暮れたけど、人々は減らないどころか、増えてさえいる。今日は夜まで営業するぞー。
えー、ウェイアールまで裸になって、魅力的な体を惜しげも無くさらしている。周りの視線がヤバいけど、さすがに近づくのはガードされてる。
にしても、すごいボディライン……。元々、このセカイの人達は整った姿をしてるけど個性はある訳で、フェルミナやミネルバ、ウェイアールの様にパーフェクトなボディラインはなかなか出会えない。羨ましい……。
タキナ? タキナはかわいくてキレイで、ボクにとって間違いなしの一番だよ。
二番? 二番ねぇ……。
夜も更けたので子供プールは営業終了。大人プールはウェイアールの兵達に管理は任せて、勝手に土の豆腐建築でプールハウスを作ってくつろぐ。今日は覗きと立ち入り厳禁だよ。
お風呂を準備して、頭を洗っている処に声がかかる。
「賊様ー、賊様ー」
「もう……。 ウェイとフィーだけどーぞー」
入口と窓はドアは無いから、ツッパリカーテン仕様。魔法でガードはしてるけどね。
カーテンをめくって裸のままのウェイアールとフィーが入ってくる。
「失礼致します。 ……賊様、とてもお綺麗でございます」
「ありがとう。 ウェイに比べられるほどじゃないけどね」
「そんな……、とんでもございません」
「ううん。 とっても素敵」
「ありがとうございます……。 水浴びでございますか?」
「まだ裸なんだ。 湯浴みだよ、一緒にどう?」
「今、水浴びしていた処なのですが」
「水浴びと湯浴みはまったく別だよぅ。 ほら、おいで」
「はい……」
彼女の髪を優しく丁寧に洗う。
綺麗な銀色の髪。色も長さもタキナを思い出してしまう。
「どなたの事をお考えですか?」
「大切な人……」
「羨ましい……。 恋人でございますか? 私もその様な瞳で見つめて頂きたいです」
「ウェイにはいないの?」
「立場がありますので、なかなか」
「早く出会えるといいね」
恋に恋する乙女だねぇ。お風呂の時間、夕食、泊まると言うので眠りにつくまで、せがまれるままに頭を抱いてボクの話をしてあげると、すぐにかわいい寝息が聞こえてくる。
フィーが付き添ってるけど、一緒に話に食いついてくるし、布団にも入ってきて面白い。
「フィー達は恋の話をしに来たの?」
「いえ……。 あなたから周りのセカイの事を聞きたいと……」
「本末転倒だね。 にしても、無防備過ぎじゃない? ボクを信用してるとか言わないよね? 君はウェイを殺したいの?」
冷たい口調に目を逸らして、押し黙る彼女。少年マンガじゃないんだから、いつもいつも拳を交えたら、ハイお友達とはならない。油断したら即終了になるセカイなんだから、他人を連れたまま賊に会いに行くなんて考えられない。ましてやお姫様。
「フィーは、ウェイの事好きなんだね。 わかるよ。 ずっと彼女の事しか見てないよね。 こうして眠る隣は君の場所なのかな?」
「…………」
「かわいいよね。 このまま唇を重ねて、体を交わらせたくなる。 いいの? 目の前で奪われても」
「…………」
彼女は固く口を結んで目も閉じてしまう。
むぅ。
わざと聞こえる様に小さく舌を鳴らしてから、ウェイの耳を喰む。起きてはいないけど、小さくかわいい声が漏れる。
嬲られてすこし荒くなってきた息遣いを聴かせながらフィーに触れるとピクッと小さく震えるけど、口は結んだままで反応は薄い。
強情……。
フィーの目に涙が溜まってきてモヤモヤするから止めて、ウェイを起こさない様に静かに彼女をベッドから連れ出す。
悪い事をしているのだけど、女の子を泣かせたい訳ではないからね。




