わかりきっていた事
マンパエルまでは一本道。と言うか、方角がズレるからまっすぐ進むしかない。通り道には村が2つほどあるらしいけど、誰もいないと思うだって。
小さい山や林なんかも突っ切るけど、平地は枯れていて草木が生えてない。飢饉って言うけど、国中がこんなに? わかんないけど、おかしくない?
ただ、地図を見ても中心付近に川や湖が無いのは事実だから、雨が降らなければ簡単に干上がるとは思う。文明って川や湖、オアシスを中心に栄えるはずなのにねぇ?
魔法で雨を降らせるのは難しくないけど、空気中の水分が無いから魔力をバカみたいに使うだろうね。等価交換じゃないけど、それに類する物があると無いとでは全然難易度が違ってくる。
途中、村だろう建物達が見えてくるけど、周囲の畑だったろう見た目の場所にも何も生えてはいない。
ポツポツと気配があるけど、なんで? いや、今はいいか。気にはなるけど仕方ない。
日が出て少し経った頃にマンパエルの城壁が見えてくる。さすが首都の隣で第一の商業都市。地方の拠点都市とは大きさが段違だねぇ。首都シャルマンペイはマンパエルの向こう側だから、ここからは見えない。
ふむふむ。 ちょっと考えが浮かんで作戦変更っとか考えたんだけど、先ずはアンの家族の首輪の確認だった。
人気の少なそうな場所は聞いてたから、短距離転移の連続使用で直接町に入る。
魔力消費が激しいけど、二人の安全確保を優先。アンの予想通りに人目に付く事なく侵入に成功して良かった。
アンを起こしたら、アンは軍服でボクは町にいておかしくない格好に着替えて通りに出る。
通りは普通に活気があって賑やか。見えるのは、ほとんど女性といくらかの兵士。女性達の表情に陰りはなくて明るい。
女性達は、もう納得はしている。納得せざるを得ない。兵士達の誘いには応じないといけないけど生活は保障されてる。
十三までの子供とは一緒に過ごせるし、十四〜五十までの男性は、兵役、労役に就かされるだけで殺される訳じゃない。
あの死体の山は村の人達や高齢者、病人や体の不自由な人達。
…………。
視線は受けるものの軍服のアンと一緒なので絡まれる事もなくアンの家に辿り着く事が出来る。
「おねぇちゃん、おかえりぃー」
「アネハ、ただいまぁ」
「アン、おかえり。 昨日は帰らなかったから心配したのよ。 そちらの方は?」
「あぁ、新しく一緒になったユフィ」
少し大人なアンとちょっと子供なアン。まるで三姉妹みたい。
アンを殺しかけた事が胸に刺さる。
「アネハ。 お母さんと話しがあるから、ユフィおねぇちゃんを見ててくれるかな?」
「はーい」
「ユフィごめんね」
お母さんはアイネさん。妹はアネハちゃん。
アンはアイネさんを連れて奥の部屋に入っていって、アネハちゃんはお茶を淹れてくれるみたいだね。ボクをイスに着かせてくれるのでテーブルに焼き菓子を準備する。
「すごーい、おいしそー」
「どうぞ、食べて」
「…………」
「どしたの?」
「お母さんにも食べて欲しいから我慢する」
「そっか、偉いねぇ。 なら、これはお母さんに」
袋詰めの焼き菓子をアネハに手渡すと顔が輝く。見てると温かい気持ちが浮かんでくる。
アネハの家庭は、父エルドと母アイネ、兄カインと姉アンの五人家族。
アイネさんは裁縫職人で十一のアネハはお手伝い。
エルドとカインとアンは兵士。エルドは南方の警備で、カインは騎士になれるかもしれないと話す。
「お姉ちゃんはとっても強くて、お城の騎士でも勝てないんだよぉー。 父さんと兄さん、早く帰ってこないかなぁー。 おねぇちゃんどうしたの? 」
「…………ごめん。 なんでもないよ。 早く帰って来て欲しいね」
「うん。 父さんは年に数回しか帰ってこないんだぁ」
下を向いて歯を食いしばる。目を合わせるなんて出来ない。
わかりきっていた事。覚悟も出来てるけど、溢れる涙は止められない。
どんな綺麗事やお題目を並べても、ボクは人殺しなんだから……。
頭が割れそう……、胸が苦しい。
タキナぁ……。
「ユフィ……、ユフィ?」
「…………」
顔を上げると、アン達が心配そうに覗いている。
「ひどい顔……。 どうしたの?」
「大丈夫。 魔力欠乏かな……」
「そう……。 話は終わったから、今日は休んで明日にしようよ」
「大丈夫……。 夕方まで休んで日没に出ようか? 」
「わかった。 ご飯仕入れてくるから、ゆっくりしててね」
「ありがと」
アンの部屋を案内されてソファーに横になる。
アイネさんとアネハちゃんとは居づらいから有り難い。
コンコン
「はい」
「失礼するわね」
アイネさんが体を起こしたボクの隣に座る。
「ユフィさんはジュノーの騎士なのよね」
「はい」
「こんな所まで来てくれてありがとうございます。 でも……でもね……、アンとアネハの兄、カインはあなたの手によってこの世を去ったわ。 そして夫のエルドのいる南方の警備隊は、ほぼ壊滅状態と聞こえてきてる。 これもあなた達の仕事?」
「はい……」
「兵士だものね。 仕方のない事よね。 アネハには伝えないつもり。 だけど目の前で兄を失ったアンはきっとあなたを許せないと思う」
「…………」
「私もあなたを許せない。 でも、私は隠します。 あなたは今まで考えられなかった選択肢を示してくれた。 その先に、アンとアネハに戦いの無い平和なセカイがあるのなら、あの子達の未来の為なら、私は隠し続けられる」
「申し訳ありませんでした」
「ただいまぁ。 ユフィ、もういいの?」
「うん、大丈夫」
「ちょっと早いけど、ご飯にしよう」
アンがテーブルに持って帰ってきたプレートを並べて、お鍋からスープを取り分ける。
マッシュポテトに少しだけどお肉と野菜。スープにもちゃんと具材が入ってる。
「これが配給?」
「そうだよ。 朝と夕方の二回、配給場に取りに行くの」
「ボクのも?」
「みんな嘘つく必要ないから、申告した分貰えるんだよ」
「悪くない生活だね。 ほんとに捨てていいの?」
「これ、全部他国からの支援品だよ。 だんだん少なくなってきてる。 壁の外はあんなんだし、ジュノーとの戦争に踏み切った……。 もう限界なんだよ」
「そっか、わかった」
食事の後で首輪を見せてもらったけど、遠隔操作で痛みを与える効果と爆発の効果。
ホウルディスパージョン……リリース。
うん。思ってたより魔力を使ったけど解除は出来た。でも、継ぎ目がない? 嫌な予感がする。
「アン。 効果は解除したけど、何か機械的な仕掛けがある気がする。 外すのは壁の外にしよう。」
日暮れになり、先ずはアンとアネハが家をでる。特に合図がなかったから、次はボクとアイネさん。
日が暮れてからの外出は問題ないけど、家族と思われてしまう四人組での行動は避けて後で合流する。




