転生者Ⅱ
ふぅ……、気が重い。
みんなを救いたいけどそんな事出来ないし、ハンパな事すると自分に返ってくる。自分に返ってくるだけなら良いけど周りに危険が及ぶのは許せない。
かわいそうだからと言って、ゴブリンの子供を見逃がしてはならない……。
ベンケイを戻したら気絶した彼女を担いでシャレードの回収に行く。
ボクは撃ったよ。ただ装甲が硬くて抜けなかっただけ。
そして、直接当たった時に展開された彼女の防壁の構成陣には数字やアルファベットが入ってたんだよね。
シャレード本体もだけど、武器が増えて行くのが嬉しい。手数が増えるからね。
ん? もちものが犬でいっぱいでもてない。 犬ってなんだ? なーんて。
ボクは動物には縁が無い。きっと攻略対象と同じで本能的な恐怖を感じるんだと思う。馬車は恐怖耐性をあげてから、あまり気付かれ無い様にして乗ってる。
戦いとしてはなかなか良かった。魔力使い過ぎて、ちょっと眠気に襲われるくらい。
シャレードの回収を終えたらまた彼女を担いでネスタフェの町に急ぐけど、意識が戻りそうになったらヒュプノスで眠らせるのを繰り返す。あんまりキツくかけたら死んじゃうからね。
ネスタフェに着いたらアシェ達の所へ。フェルミナの見張りだろう気配が動くのが分かったけど、まぁいい。
「テメェは、また女攫ってきたのかぁー?」
「ちゃうわっ。人攫ろた事ないわっ」
「綺麗なお嬢さんじゃねーか。 タキナも大変だなぁ」
「…………」
確かに綺麗な女性ではある。
彼女はソファーに寝かせてからエチュードの報告書を渡し、遭遇戦についても説明して、質問に答えて、陛下とミネルバへの報告は彼女に任せる。
「直ぐに戻るから、後の事はお願いね。 この娘の話によってはもう一戦するかもしれない。 その時は朝には出発したいから」
「無茶苦茶言うなぁ。 まぁ、出来る事はやるけどなっ。 後の事ってのは殿下の事もだよなぁ? それはあたしは知らんからサシャに頼んどけよ」
「サシャ姉ごめん。お願いできる」
「もちろんいーわよー。 かわいい妹だもんねぇー。 うふふふふぅ。 この娘もかわいいねぇ。 新しい妹になるのかなぁー?」
「…………ならないよ」
「シャレードとタイプⅢ、二十以上あるけどいる?」
「シャルマンとジャローダも変な奴に喧嘩売って大変だなぁ。 とりあえずシャレードを十だけでいい。 要らなかったら返す。 殿下との関係があるからこの先大丈夫だとは思うが、今でも過剰なくらいだからな」
「オッケー、グーグー」
「じゃ、そろそろ彼女を起こす?」
「ああ。 どうする? サシャに任すか?」
「うん、お願い」
「はーい。 まかされよぅ」
ソフトウォッシュ……リリース。
別に人を起こす魔法じゃなくて洗浄魔法。
水と空気の粒子が部屋全体を包み込むエアコンのCMのイメージ。これ、さっぱりしっとり清々しくて、快適に起きれるのだ。
一応unknown姿に戻っておく。
「ん……ん……」
「気が付きましたか?」
「ここは? あなたは……」
彼女は自分の手足を確認して、部屋を見渡し、ボクを見つけて駆け寄ってくる。
「あなた、転生者よねっ。 お願い……。いえ、お願いします。 母と妹を助けて……」
沈黙を通すボクに縋り付いて泣き始めた彼女にサシャ姉が優しく寄り添う。
「落ち着いたかな? ここはジュノーで、私はサシャ。 あなたは?」
「この娘は?」
「気になるよねぇ。 でも、先ずはあなたの事教えて。 そしたら力になれるかもしれないわよぅ。 はぁい、座って。 お茶いれるねぇ。 何か食べるかなぁ?」
向かいに座った彼女は、ボクから目を離さない。
「ねぇ、マスク外して顔見せて」
「…………」
「あなた、ベンケイの事知ってたわよね? ねぇ、何か答えなさいよ」
「ほらほら、落ち着いて。 この娘も色々あるのよぉ。 はい、どうぞぉ」
「紅茶にサンドイッチ? これもあなたの仕業?」
ボクとアシェには紅茶と茶菓子、彼女には紅茶とサンドイッチ。
しまった……、飲めない。口の空いたマスクも用意しとこ。
彼女の名前はアン。シャルマン北部のアシモア出身。
飢饉の連続にシャルマン王の死去、女性保護と言う名目の徴収。
徴収に来た兵士が自分達に乱暴を始めて、自分達を泣きながら抱えて守る母親が斬られた時に、彼女は絶望の中で前世の記憶と弁慶という力に目覚める。
兵士を焼き払い、怪我をした母親を医者に連れて行くけど、医者に売られて母親と妹を人質にとられたる。なんとか交渉には成功してそれなりの待遇で兵役に就く
今は首都シャルマンペイにほど近くて、女性達が集められている商業都市マンパエルに住まわされている。
それなりの自由はあるけど、母親と妹には魔術の首輪がつけられていて、外し方や効果ががわからない。
多くの人達が飢えて死ぬのを見捨てたし、町に押し寄せる人達を焼き殺した。自分は殺されても仕方ないけど、二人は助けたいとの事。
話の内容に聞きたい事はあるだろうけどアシェは何も言わない。解ってるからなのか、気を遣ってくれてるのか。
「やれんのか?」
「問題ないよ」
「二人を助けたら、余計な事せず戻ってこい」
「…………わかんない」
時間が経ったから、そろそろフェルミナが来てしまう時間かな?
アンをアシェ達に任せてフードとマスクも外して城壁へ出る。
季節的な事もあるけど、やっぱりジュノーは暑い。
「ユフィ様……」
「いつもごめんね。 来てくれてありがと」
「何を悩んでおいでですか?」
「わかる?」
「ユフィ様はたいへんに素直で心配になりますわ」
「ダメだねぇ」
「隠そうとしなくてもよろしいのではありませんか?」
「ほんとの自分なんて怖くて見せられないよ」
「ユフィ様の底など、たかが知れてると思いますけど?」
「それはひどくない?」
「やりたい様になさって下さいませ。 後の事は私が引き受けますので」
「うん、ありがとう」
そっと口を合わせて、ボクを抱いてくれる彼女は落ち着いていて優しい。
誰だ? 残念王女なんて言った奴は。
良い匂い……。すごく心地良い。
キュッ。
ギュッ……ギュー……ん? ギュ、ギューーー。
「んっ……んーー」
彼女の唇は無遠慮に絡みついてきて純粋にいやらしくて上手なのだ。
すごくいいのだけど、みんな見てるからダメなのだけど、ずっと欲しくて……。
ガツンッ。
だから、ズボンを降ろすなっ。
エストアさん、さすがに止めろよっ。いつも無表情にカカシになるんじゃないっ。
せっかくの良い雰囲気を何でぶち壊すかなぁー。




