負けないもん
話の後はみんなで食堂で夕食を頂くのだけど、フェルミナは当然ながら、アシェ達も人気が高い。
男女問わず視線が刺さって食べにくいわっ。
ボク? …………。
「もう行くのか?」
「うーん。 ちょっと頭も冷えたから、朝に着くくらいに出るよ」
「私との時間を頂けるのですねっ」
顔が陰ってきたフェルミナが笑顔になった。
ふふふ、かわいい。
彼女の伸ばしてくる手に頬を寄せて温もりを感じる。
火がついちゃったみたいで、唇に寄せてくる親指をそっと喰む。
「殿下っ。 ユフィお前もだ」
「ほーい」
夕食後に部屋を用意してもらってカモミーから直接話を聞く。二人きりでと言ってるのだけどフェルミナが離れない。王女様がいたら話せない事もあるかもしれないじゃん。
ほっぺを膨らませた彼女をエストアに押し付けて部屋に入るけど、任されたエストアの嫌そうな顔にウインクで返しておく。
「ユフィ様、申し訳ありません。 報告の為とはいえ一人で戻って来てしまって」
椅子に座っていたカモミーが立ち上がって頭を深く下げる。
泣いてたんだろね。瞼から頬まで朱くなっている彼女をそっと抱きしめて頭を撫で、また大泣きになるのをそのまま抱きしめ続ける。
「よしよし、良い子だね。 カモミーが無事で良かった。 ボクは君にも死んで欲しくはないからね」
少ししてドアが開いて憎悪の空気が拡がるのを冷めた視線で黙らせると、後ろから引っ張られ引きずられていく。
こいつは、なんで慎めないんだ? あんなに完璧な美人さんだったのに、どんどん残念王女になっていくな……。
誰のせいだっ? ボクですか? そうですか……。
なかなか泣き止まないのだけれど、だんだんとドアの開く間隔が短くなっていく。
「ユフィ様、申し訳ありません」
「いっぱい泣いて、いっぱい吐き出したらいいさ。 ボクもよく泣くしね」
カモミーから特に新しい話は無かった。ジャローダ兵が来てカシュナッツが話をしに向かったけど、戻る前に進軍が始まる。エチュードがカモミーとエファに退避を告げ、二人共拒否するが、副官としてカモミーだけが報告に戻った形。
「ユフィ様……私も一緒に」
「ダメ。 辛かったね。 でも、何があったとしても、それはカモミーのせいじゃない。 背負うべきはボクだけだから」
「フェルミナ。 ふくれてないでボクの服見てくれない?」
「ユフィ様が、ずっと抱いていてあげる必要はなかったのではございませんかっ」
「ほらほら、綺麗な顔が台無しだよぅ」
「ごまかさないで下さいましっ」
「ふふふふ」
風船になったフェルミナを衣装室に押していく。
身バレしない為には……やっぱり仮面か?
良いの持ってないんだよねー。
姿を隠すだけなら簡単だけど畏怖は与えたい。
ゴツい鎧を着込んで、中身はかわいい女の子でしだぁ。は、ネタバラシしないと面白くない。
鎧の内側に錬成陣を描くのを忘れてはいけない。
なんの? なんのだろう?
「3.2.1、仕方ないからお相手してあげますっ。 魔法少女ピュアユフィ」
おや、エストアは興奮気味だけど、フェルミナには受けが悪い。足を出し過ぎ? それがかわいいんじゃん。
ミネルバんとこから貰ってきたのであって、緑色から一ゴールドで買った物ではない。
ちなみに、このセカイに魔法少女は実在するらしい。
シルクハットに仮面を付けてタキシードマスク。
フェルミナは喜んでるけど、エストアは爆笑中だ。
ああ、どうせチンチクリンですわよっ。
エロチックな水着にコウモリ羽根と尻尾はどう?
エストア、そんな不憫な目で見るんじゃないっ。かわいいだろーがっ。
ちょっと気にいったのに……。
フェルミナさん……鼻息が荒いっ。
初級天使の鎧に天使の羽根はどーだ?
おー、二人から拍手がもらえた。
ダメ? 著作権か? 違う? 聖王国がうるさい。
「滅魔師の誇りにかけて、ボクは君を倒す」
白の騎士服に裁の弓と眼鏡はどうかな?
カッコつけすぎでナルシスト? そうですか……。
普通だけどメイド服もかわいくて良いね。
………………。
だれか着ぐるみ作ってくれないかなぁー。
あら、フェルミナさん良い物お持ちね。
彼女が持ってこさせた物の中に人間をやめれそうな仮面がある。
ハァハァ、血を垂らしたい衝動が抑えきれない。
ポタッ。
「しかし、なにもおこらなかった」
うん、知ってた。
やっぱりこれかな。
セブンスターさんが付けてた様な冷たいイメージのシンプルな仮面。
ハァハァ、ボクの中に眠るゲーマーの魂がぁぁ。
マタドール風衣装に鉤爪を装備して壁に引っ付いたら、二人に気持ち悪がられた。
あれっ? かなり好きなのだけれど?
髪の毛を黒に変えて鏡のボクを睨む、どこかで見た顔………。あっ、ユフィーリアじゃん。
当たり前か……。
結果、黒髪マスクに黒の騎士服、黒龍丸or死神鎌に決定。
吸血鬼はボクが根絶やしにしてやる。
あっ、吸血鬼も普通にいるよ。ドキLOVEに吸血鬼イベントもあるしね。
青の騎士服は無いのでフェルミナにお願いしとく。必須だからっ。
「いってくるね」
「くれぐれもお気をつけて下さいませ」
柔らかく唇を合わせて……合わされて……重ねて……求められて……。
離しなさい……。
殺る気ゲージが下がっていくー。朝になるぅー。
心に鞭打って絡みつく彼女を引き剥がす。
「帰ったら、ゆっくり労ってね」
「はい……じっくりと……」
だから、じっくりって表現はおかしいから。
もう一度唇を合わせてから……重ね……離しなさいっ。
静まれ、静まれ、静まれ。
治まらない胸のドキドキを我慢して夜のセカイへと走り出す。
負けないもん。
いつもは距離をとるジュノーの騎士と思われる気配に、スピードだけ落として問答に応じる。ルート変えると方角がズレて着かないからねぇ。
ジュノー兵士に認知はされてきてるから、特に問題なく開放してもらえて、助力や乱入の感謝を告げられたりもする。
国境は越えただろうけど、シャルマン兵の気配はなく、逃げる国民などの姿もない。町以外の場所にはどれほど国民が残っているんだろう。
そのまま接敵もなくマスチペに到着したので、近づきすぎずに軽食にして朝を待つ。
そろそろかなっ。殺る気は紛れたからね、仮面は外さないから怪しいのは怪しいけど、いきなりの敵対行動はとらずに友好的に接触をはかろうかな。




