火をつけた奴は誰だ?
翼のある人間が四体。輪っかは無いけど、ユニセックスの彫像の様な端正な顔立ちに手に弓を持ち体には真っ白な甲冑を装備していて、完全に天使の姿をしてる。無表情にこっちを覗う目からは何の感情も感じられない。
敵……なんだよね?
フードを被った侵入者が天使と対峙する姿は絵的に嫌なのだけど?
人型の魔獣は嫌い。知性があったらもっと嫌。
人だってそう、躊躇はしないし、慈悲もかけないけど別に楽しくて殺す訳じゃない。断末魔を聞きたくて斬る訳じゃない。
人の声は、耳に残るから嫌い。
人型は滞空して狙いを定めたままで降りてこない。
クールタイムだしね、時間かけたら敵が増えるから落とそう。おいで黒龍丸。
人型の矢? ビームが放たれると同時にテレポートで背後を取って翼の根本を刈る。反応する事もなく薄い障壁を破られてあっさりと翼を無くした人型は地面へと落ちていく。
後の三体も同様に落として自然落下で戻ると人型は落下ダメージで既に死んでいる。
知性があれば質問したかったんだけど仕方ない。装備だけアイテムボックスに収納して、近くの建物に身を隠す。
けっこう魔力使ったからね、連戦は足元を掬われるから休暇にして軽食を頂く。
戦時中だから? 町には人が少なく中心付近に固まってて、他は疎らだから兵士かな? とは思うけど五人しかいないんだよねぇ。さっきの戦闘の為かこちらに集まって来ているけどね。
一応警戒しながら気配感知だけしてるけどいちいち建物の中は調べないみたいだね。
五人じゃ無理だし。
人型から回収したアイテムは「下級天使の鎧」と「裁の弓」。
やっぱり天使なのか……、見た目はゲーム「転生の女神」の中のパワーやアークエンジェルみたいだもんねぇ。
鎧は普通に上級品っぽいね、そこらの物より丈夫そう。
弓を使ってみたいけど、魔力で位置バレしそうだし、眼鏡と滅魔師クロスのネックレスは持ってないからねっ! キラッ。
白い騎士服はあるのだけど。
休憩終了。もうすぐ夕方だしカラスと一緒に帰りますか。 お泊りしたら落とせるけど……落とすか? いや、夜でも大丈夫だけど一般人がいたら巻き込んじゃうからやめとく。ジュノーに違う動きがあっても分からないしねぇ。
とりあえず周りに展開してるシャレードを一体づつ廻って回収して城壁を更に崩壊させてから帰路につく。
四分の一くらいは崩せたかな? もし明日に総攻撃なら一瞬で落とせるよね。
今日はちゃんとフェルミナの所に帰らないと、お仕置きは良いんだけどエスカレートして変な方向にいっても困るからね。
ボク、普通だからっ! 変な性癖無いからね!
まぁ、帰ったら夜だし、今日はアシェ達の所で過ごしてるはずだから大丈夫ではある。
「ただいまっ……」
部屋に入ると言葉もなくきつく抱きしめられる。
離れて合わせる顔には喜色が見てとれて、心配かけてる事に心がキュとなる。
頬に手をあてられて唇を重ねられるのは嫌じゃないけど、みんなの前で激しく求められるのはやっぱり恥ずかしい。
「こぉらっ、フェルミナ。 二人になってから」
「構いませんわ」
いや、構うわっ。ボクの為に気にして。
んっ……、嫌じゃないんだけど……あぁー。
ていっ!
手が入ってくるから、さすがにデコピンの刑に処す。
「何をなさいますのっ」
「ふたりきりじゃないと、集中できないのっ」
目を向けると真顔になるけど、ゼニス達はニヤニヤしてるし、さすがにエストアは目がまん丸になって口が開いてるよっ。
まったく、とんでもない王女様だ。
火をつけた奴は誰だっ。
お前だっ。 そうでした……。
「わかりましたわ。 ゼニスっ」
みんなが静かに一礼して退室した途端に迫ってくる彼女の唇を指で蓋をする。
「?」
「心配かけてごめんね」
「いえ。 未来の無かった私に、愛する人と一緒になる希望をいただきました。それだけで十分でございます」
「ありがとう」
蓋を外してゆっくり唇を合わせて柔らかさを味わう。
「やっぱりユフィ様の方がいやらしいですわ」
「フェルミナには言われたくないっ」
「フフフ、私は幸せでございます」
また重ねられる唇は浅く控え目で……。心を伺ってるみたいでかわいくて、応える様に浅くゆっくりと重ね返す。
邪魔が入らないと思って過ごしていたら、もうお昼前になっちゃってた。
フェルミナが声をかけるとゼニス達が入室してきて、お風呂を頂いてから昼食になる。
エストアの呆れた顔には苦笑いで返すしかない。
今、この瞬間にミネルバのライトなジョークを求めてしまうのは、ゲーマーの性だね。
昼食の後はフェルミナと他愛もない話をして過ごしてアシェ達の戻りを待つのだけど、夕方の気配が近づく頃に伝令の持ってきた手紙によりフェルミナと共に領事館に呼ばれる事になる。
手紙の内容は……あぁ?
「行くよフェルミナ」
「はい……」




