今日は逃さないかんねっ
気分が重い。
単発だったけど流れ弾なんて可能性はない。
もとがゲームのセカイだから遠距離ライフルはチャージが長いと考えていいんだろうね。
ボクの認識範囲外からなんてシャレにならないよぅ。
ネスタフェまで帰り着いて、先ずはフェルミナのテントに向かうけどいなかったのでアシェの所に。
「はえーよ」
「喜び余って、ハグチューとかしてよっ」
「ないわっ。 とっとと殿下のとこ行けや」
「サシャねぇ~」
「はいはい、よしよーし」
サシャ姉は期待通りに優しく包んでくれる。
柔らかくて落ち着く。
一通りの報告をして、スナイパーの件は魔法で再現もして危険性を伝えて、ミネルバに報告書を送ってもらうから、ボクも文を書き足す『メガ粒子砲きたぁ〜』『タキナに会いたいよぅ。 ……』。
あっ、半分以上タキナへのメッセージで埋まっちゃた……いてっ。
「人の手紙に何してんだ? こら」
「すいませんでした」
急ぎで飛んでもらうから、明日の昼には返事があるだろうって。
「シャレードはどする?」
「全部渡していい。 数はいくらあっても良いし、先ずは勝たねぇとだからな」
「おけ。 一緒にいく?」
「行く。 報告書出してから行くから、殿下のとこで待ってろ。 宿舎に部屋が用意されてるからな」
「おけ」
「ほどほどにな」
「おけ……」
「ユフィ様……」
フェルミナの部屋に入るなり、駆け寄って唇を重ねてくる彼女が激しくボクを求めてくる。
昨日の朝ぶりだからね、そんなに経ってないよっ。
「殿下……。 そういった行為は人払いの後でお願いいたします」
「ユフィ様を取らなければ、ご一緒いただいてもよろしいですわよ」
「私とその娘はそういう関係ではございませんので遠慮させていただきます。 では失礼いたしまします」
フェルミナさん、その顔は止めなさい……。
この妖しさに我慢できるエストアがスゴい。
ボク? …………。
まぁ、ボクに絡みついたまま言われても……って感じではある。
少ししてアシェ達が来てから陛下も交えての軍議でマスチペと帰り道の遭遇に付いて報告させてもらえる。
唐突な着弾に驚いたけど、受けた感じでは、防壁の展開さえ間に合えば防ぐ事は可能と思われる事やシャレードを追加で回収出来てる事などを発言する。
ボクの帰りが早かったのでジャローダからの返事待ちになるものの、全面攻勢の決定は変わらない方向で夜まで軍議は進んでいった。
「ユフィ様。 明日はゆっくりいたしませんか?」
「うーん、スナイパーが気になり過ぎるから前線に出てくるよ」
「いつもそうやって動き回ってばっかりで……」
「ごめんね、気になると仕方なくてさ。 後悔したくないんだよ」
「まったく、タキナさんの苦労が思い図られますわ」
「ふふふ、心配かけるね」
「ちゃんとお戻りになって下さいね……」
ゆっくり重ねてくれる唇は優しくて、返してキュッと抱きしめる。
「行ってくるね」
「嫌です。 もっと……もっとユフィ様を感じさせて下さい」
強めに止めないと彼女はずっと求めてくるから、ボクも我慢できなくなる。
当然嫌じゃないけど、いつまでも仕事に出かけられくなっちゃうからねっ。
町を出てチマスペへ向かうルートの国境付近に走るけど接敵はなし、ここから国境沿いに東に向かって走れば夕方までには北側の掃除は終わる予定。
一般兵は直ぐに火だるまにして、シャレードの操者も敵じゃない。
工程的には中程、シャルマン北部の拠点キリコモカとネスタフェを結ぶ地点で二十メートルほどの幅の道の両側は林になってる場所だけど……きたっ。
一瞬で着弾するけどゴワッって風斬り音と共に防壁にぶつかる。
待っていたからね、最初から防壁は展開済で受け流す様に角度をつけて弾く。
ガキィィィィン。 音と衝撃と同時に弾かれるけど、もう一発? いやニ、三……。
しかも前回より威力も高くて、さすがに後ろに吹き飛ばされる。
にゃろっ。
今日は逃さないかんね。
でも連射も出来るんだ……、後が来ないのはエネルギー不足か、逃げに入ったか……。
射線の方向に走るけど、前回と違って探知するまでもなくシャレード部隊が展開されているのが視界に入ってくる。
指示なのか、メガ粒子砲が撃たれたからか、全機搭乗して臨戦体制に入っていて色の違うのも一体いる。
良いね、お相手願おうかっ。
防壁を展開したまま突っ込むボクに無数の実体弾が迫る。
ほとんどの弾が弾かれる中、数発が着弾と同時に爆発して爆風をまき散らすのを、吹き飛びながら出元を探す。
あいつらか……。
シャレードだけど肩に大口径の砲身と腕に大きめカノンを装備してるのが何体かいる。
あれがメガ粒子砲?
防壁は抜かれないけど良い腕だ。
「見せてもらおうか、シャルマンの魔装機の実力とやらをっ……てへっ」
体勢を直し防壁を小さくして、小さい弾は放置で大口径弾だけを避けて特攻む。的が小さいだけに当てにくいでしょ? さすがに全部を避けるのは厳しいのだけどね。
一気に距離を詰めて、遅い斬撃は気にせずに胸部にオルトロスのパイルバンカーの杭を打ち込む。
操者は処分して、シャレードは無事ならラッキーぐらいで良い。
朝、オルトロスを出したら腕がもげてたから射出せずに直接当てるだけ。ヒールで治せばいいけど腕が吹き飛んだり、バラバラになった時はかなりの魔力を消費するから、下位ぐらいでは使わない。
接敵したら大口径弾は来なくなったから、次々にシャレードを捌いていく。
数が減ると、また大口径弾が打ち込まれ始めて動きが制限されて煩わしい。
ガキィィィィ。
放ったオルトロスの刺突が横槍の剣で弾かれる。
ボクに両手持ちのシャムシールの連撃が繰り出されのを回避とオルトロスの装備で防ぎ弾いて捌いていくけど、人VSロボって見た目良くないね。
色の違うあいつだ。 グレーのカラーリングに左肩にはエンブレムがついていて階級の高さを感じさせる。最初のオルトロスと同じで射撃装備に寄せてないから自信があるんだろうね、小さな的相手に速く正解な斬撃を繰り出し続けてくる。無駄に大きな攻撃は無いし間合いの管理が上手い。
アーススワンプ、アースランス……リリース。
シャレードの足元をぬかるみにして周囲からトゲで襲わせるけど効果はない。
向こうが大きく下がって距離が開いたので集中砲火にさらされるけど、爆風のお陰で舞い上がった砂埃を更に増やして身を隠して逃げるっ。
残念ながら、ボクは常勝将軍じゃないから勝てないなら逃げるよっ。
シャレードは全てパスが繋がったから、操者を排出して戻らせて駆け抜けながら手首だけアイテムボックスに回収していく。
視界がクリアになって追撃をしようとするシャレードにアースクエイクとアーススワンプ(効果拡大)を使って足止めする。シャレードはローラーダッシュが基本だし、ジャンプ能力は高くないから効果は高い。
逃げるボクにまた後ろから光が迫るのを防壁で弾かずに直撃した様に見せて短距離転移の連続使用で距離をかせいで帰路につく。




