お兄さん良い人だね、嫌いじゃないよ
とりあえず国境の川まで来たんだけど……、シャルマン側は兵士がいっぱい?
ジャローダとシャルマンは繋がってないのかな?
渡れる所を探して川を下って行く、兵士の目は途切れないけど見えてるはずのボクには特に反応はない。
常識の範囲で走って下って一時間ほど経った頃、こちら側にジャローダの兵士が十人ほど何かを燃やしてるしてるのが見える。
ルートは外れてないし、今回も友好的に行こう。
だんだんと何を燃やしてるのか見えてくるんだけど、人じゃんか。
川は蛇行して流れが緩くなる場所でそこに浮かぶ無数の塊を引き上げて燃やしてる。
近づいても特に反応のない兵士の襟首を締め上げる。
「お前等、何してる?」
「おい、離せっ。 見てわからんのかっ? 死体を処理してんだよっ」
「なんで殺した?」
「俺達じゃない。 あいつ等だよ。 あいつ等は逃げようとする国民を殺して川に捨てやがるんだよ」
「なんで……?」
「離せっ。 ゲホッ、グホ」
降ろして咽る兵士に謝罪する。
集まってきて敵意を放っている兵士達にも頭を下げてお詫びする。
「事情も知らずに申し訳ありませんでした。 お詫びに食事などご馳走させていただきますから許して頂けけませんか?」
「事情を知らなかったら仕方ないかもな……」
了承を頂いたのでサッと机や椅子を準備して料理を並べる。
昨日の準備が役にたって良かった。
「凄い収納力だな。 あんたは冒険者か?」
「はい。 この度は申し訳ありませんでした」
給仕をしながらこの辺りの事を教えて貰う。
シャルマンの国民はもう限界で、なんとか逃げ出そうとするけど見つけ次第処分される。
殺さなくてもと思うけど、兵士にそんな心は無い様で警告すら無い。
死体は子供の物まであるけど、みんな痩せ細っていてイライラする。
怒りが湧いてくる。
頭の中が黒く染まる。
「シャルマンに渡れる場所はありますか?」
「止めとけ。 気持ちはわかるけど助けられねぇよ。 渡れる所はねぇし、手出ししたら殺されるぞ」
「でも、許せない。 シャルマンの兵士を殺したらジャローダ軍は敵になりますか?」
「怖いこと考えるな。 忘れろ。 関係ないだろ」
「大丈夫ですよ。 こう見えて強いんで」
漏れ出す威圧感にそれ以上の言葉は無かった。
シャルマンに手を出してもジャローダには関係ないそうだ。
フローティングボードを足場にして川を渡って一人の兵士の横に降り立つ。
特に川の方は気にして無かった様で気付かれる事もなかった。
「な、なんだお前はっ」
周りの兵士が反応して剣を抜く。
「ねえ、なんで国民を殺すの?」
「逃げるからだよ」
「みんな飢えてるのに、なんで普通に生きてるの?」
「はっ、俺達が飢えたら誰が国を守るんだよっ。 お前、女か? 暇してんだよ、遊んでくれよ」
「そうだね。 楽しいと思うよ」
ノコギリ刃のザラメを取り出して振るうと防壁に邪魔される事もなく男の両手は引きちぎられる。
騎士じゃないから仕方ないね。
「ギャーーーーーーーー」
「ねぇ、楽しい? 楽しいよね?」
周りから一気に振り降ろされる剣撃を流し、弾き、避けて全員の両手をちぎって廻る。
「ギャーーーー」「いてぇー」「うぉぉぉ」
「うるさいっ」
ほらほら、ビビってる暇はないよ。
川沿いにずっと並んでるもんね、反対側はどうしようかぁ?
駆け寄ってザラメを振るう度に血飛沫が上がる。
汚いのでちゃんと防壁で防ぐよ。
「ねぇ、人を殺すのは楽しい? 人に殺されるのは楽しい?」
「ひぃーーー」「助けろ」
兵士だろ? 敵前逃亡も死罪だよ。
ダークバインド……リリース。
ガキィィィィン。
防壁で弾かれたね。
でも無駄。
ホゥルデモリッション、スペルジャミング……リリース。
もう二時間ほどは経ったかな。
終わりがないし、つまらない。
よくもこれだけの兵士を並べてるものだ。
(ねぇ、まだやるの? ただの暴力じゃん?)
うん。 愉しくはない、歓びもないけど止めない。この先に、誰かの幸せがあると信じて。
ペースを上げて振るい続けて、列が途切れた所で折り返す。
はじめの場所ではジャローダの兵士達が渡ってきている。
「ねぇ、何してるの?」
「何って救助だろっ。 もう死んでる奴もいるんだぞっ。 お前がやったのか?」
「痛みを教えただけ。 救助は許可しないから帰って」
「止められる訳ないだろっ」
「仕方ない……。 喰らえ……黒龍丸」
仕方なく黒龍丸に持ち替えて黒龍を解き放つ。
吹き出した黒龍達はジャローダ兵は避けてシャルマンの兵達を食い尽くしていく。
「何やってんだっ!?」
「掃除だよ。 他人を殺すんだから殺されても文句は言えないよね」
「それでも……、お前みたいな子供が……」
「ボクは力があったから生きてるだけ。 殺されるのは大人だけじゃないから」
「他にもやり方はあったろっ」
「お兄さん良い人だね、嫌いじゃないよ。 でも、力無き正義は無力だよ。 そんな物、ボクに押し付けないで」
「そんなの……、悲しすぎるじゃないか……」
黒龍とシャルマン兵は既に消えている。
黒龍は知能がある訳じゃない。襲うのはボクが認知して指示した獲物だけだから自動で駆除作業終わりとはならない。
ジャローダの兵達を置き去りにして、また走り出す。
もう日暮れか、南側の国境の掃除は終わった。
地図上南西の端の村が書いてある場所まで来たんだけど、そこは無人で荒らされた様子もなくて死体もないし気配もない。
西側の国境沿いの中程には町があるはずだから、そこまで掃除をしながら進んでいく。