ボクの事は遊びだったんだね
ジャローダのキャンプを出てしばらく。
きちんと軍人さんのおすすめルートの途中の町ガーゼに入った。
町に入るのはファーレンの冒険者証と通行料で良かったんだけど、通行料が1ゴールド? ちょっと高くないか?
むぅ、かぼちゃパンツと同じ値段だぞ?
町は活気があっていたって普通だけど軍人が多いのは仕方ない。
聞き耳スキルで情報収集するけど、ラスボスチートのおかげでいきなりの大きな音でギャーとはならない。
「あっちの商店で……」「こないだの野菜が……」「隣のタヌとキチが……」「……」「……」
うん、要らない。
平和だねぇ。
冒険者ギルドがあるらしいから行ってみるか。
やっぱりギルドはいーねー。
活気があって夢があって、でも掲示板は兵士募集の張り紙ばっかり。
依頼はないのかな?
「こんにちは。 何かお困りですか?」
長い前髪で目が隠れて見えないけど、薄い水色の髪の清楚なイメージのギルド職員が話しかけてくる。
ギルドの制服は一緒なのか。
フリル元気かなぁ。
このセカイに来てこんなに長い間フリルに会わなかった事はなかったな。
「依頼がないね?」
「他所の方ですね? ほとんどの人は軍に入ってますね。 二ヶ月限定ですが給金も破格ですから。 それに危険な生き物や食用になる物は軍が討伐してくれますから、通常の採取依頼のみですね」
「そっか平和そうでいいね。 ねぇ、冒険者が集まる様な良い食堂はある?」
「でしたら三軒隣のトマト亭が良いと思いますよ。 名前の通りでトマトを使った料理が絶品です」
「ありがとう。 トマトは好きだから行ってみるよ」
「あの、ガパンクの根がすごく不足してるのですがお持ちではないですか? ほとんどは軍が抑えてしまって町の分が足りないんです」
「ガパンクだけ?」
「後、ロブとルッチの実とサン菜もでしょうか」
「一般薬の材料だね。 あるよ」
「色は付けさせてもらいますから、是非ともお願いします」
「通常でいいよ。 別にお金には困ってないし。 カウンターに木箱を四つお願いできる?」
「はいっ」
買取カウンターに用意してくれた木箱をそれぞれ一杯にする。
「こんなに。 ありがとうございます。 ギルドカードはありますか? えっ、ファーレン? ……の赤鬼のユフィ? ほんとに?」
だれが赤鬼? ボク?
「二つ名は持ってないから人違いじゃないかな?」
「私、ギルド報は絶対目を通してます。 ファーレンの王都で数年間上位冒険者のユフィ……、だよね?」
「そ、そうかもね」
近いし、声が大きいよ。
みんなに注目されてるからっ。
「あいつが……」「ちいせぇな……女か?」「貢がせてんだろ……」「信用できねぇな」「……」「……」
「払いはファーレンに送っておいてくれる?」
「わかりました。 と、証紙を用意しますから応接室にどうぞ」
「トマト亭行ってからまた来るよ」
「いえ、応接室に来て下さいっ」
清楚系美人に強引に連れ去られるのは、ちょっと期待してしまうのだけど? そんなに暇ではないんだけどなぁー。
でも別に忙しい訳でもないんだよねぇー。
応接室に入ってドアを閉めるなり壁に押し付けられて、ローブを取られて顔と髪が優しく撫でられる。
顔が近い。彼女の匂いにクラクラして、息が頬にあたってドキドキする。
キュッと強く抱きしめられて首筋に唇が触れる。
力が抜けちゃう。あぁ、もうダメぇ。
「ユフィだ……」
「?」
「あたしだよ。 マスカーニャ」
「カーニャ?」
「そっ、久しぶりぃ」
かき上げた前髪の下は記憶とは少し違うけど、見覚えがある懐かしい顔だった。
嬉しさもあるけど、胸の高鳴りが治まらなくて強く唇を奪う。
「カーニャ……。 カーニャ、カーニャ……」
「んっ……はぁ……。 わか……んっ。 ちょ……あっ……」
「止めんかっ! エロガキっ」
「イテッ」
けっこうおもっきり殴られた。
「カーニャが悪い。 もっとして」
「うっさいわっ」
もう、返してきたじゃんかっ。
この高鳴りをどうにかしろっ。
「ひどいわぁ」
「フリルに言いつけるからなっ」
あぁ、なんて酷いんだ。
ボクの心を弄ぶなんて。
「ボクの事は遊びだったんだねっ」
「このガキはいっつもマセた事ばっかり言いやがって」
えー、だってニ年前? 三年前? 精神年齢はもっと上な訳で。
見た目は子供、中身は大人……。仕方ないよねぇ。
「もう少しだけ」
「…………」
目を閉じてねだると彼女は優しくしてくれる。
へへへ、美味しい。
「もういいよな」
「ダメ、もっと優しくして欲しい」
「ちょーしにのんな」
「へへへ」
促されるまま席について、出されたお茶で喉を潤す。
カーニャはもういくつになるのかな? ボクがこのセカイに来た時には既に上級冒険者で一緒に依頼をこなした事だってある。
昔はショートボブでボーイッシュな感じだったから全然わからなかったよ。
その後にギルドのお抱え冒険者になってどこかに応援に行って、そのまま転勤になっちゃったんだよね。
「また会えた事は素直に嬉しいけど、こんなとこまで来るなんてなぁ。 フリルとは連絡はとってるから大体の事は知ってんだけど、今は学院に通ってんじゃなかったか?」
「そ、一応仕事付きで第二騎士団のビッテンフェルト家に入る事が出来てね」
「ここに来たのは仕事ってことか」
「いや、個人的理由かな。 ジュノーのフェルミナ王女と婚約しちゃって、彼女と国を護るって約束したんだよねぇ」
「王女と婚約?! 何でそうなるっ? フリルは?」
「フリルは来てないけど? なんで?」
「いや……別に……」
「? カーニャはなんで受け付けなんてしてんの? 髪まで伸ばしちゃってさっ」
「あたしギルマスだよ。 ギルマスって暇だからね」
「こんなギルマスやだよっ。 わかんねーよっ」
「だろー。 みんな声かけてくれるから楽しんだよっ」
「で、ギルドに来たのは情報収集って事だよな」
「うん。 シャルマンの事とジャローダの事」
「ユフィ。 もう少し警戒感を持ちな。 昔から男には厳しいのに同性には甘すぎる」
「そんな事ないよ。 それにギルドは中立だしカーニャは信用してるっ」
「そーゆー事じゃない。 ユフィと王女様との事は知らない事にする訳にはいかない。 二人の問題だけじゃなくて、今後の情勢にまで関わってしまう内容だからな。 その為に余計な詮索や危険だってあるかもしれない。 あたしだって例外じゃないんだ。 ユフィの事だけ考えて行動できない。 だから信用するな、簡単に考えるな。 時間と環境は人を変える。 それに……、あんなにかわいかったユフィがこんなにいやらしい娘に育っちまった……」
いや、そんな目でみないで。
普通だよ、普通。
ってか、そんな話じゃなかったよね。
「カーニャが誘惑したんじゃんかっ。 ボクは悪くない」
「ちょっと悪ふざけが過ぎたかもな……、かわいくなったな」
「へへへ、あんがと」
「戦争なんかに首は突っ込んで欲しくないけどな」
「ごめん、もう引けない」
「仕方ないな。 話せる事くらいは教えてやるから死ぬなよ」
「ありがと」
「…………。 …………」
「この辺にジャローダ軍が集まってるってゆうのは?」
「悪い情報だけどそれは話せない。 止めはしないけど厳しいぞ」
「わかった、ありがと」