朝から喧嘩とか暇だねぇ
騎士団詰所からの帰り道、何度かの近づいてくる人影を威圧と拘束魔法で押し返す。
いちいち相手してられない。暗くなるとほんとに治安が悪いから、女性は夜に出歩いてはいけないのだ。
熊の居眠り亭に着いたのはだいぶ遅い時間になった。
カウンターの二人に挨拶して酒場へ。
夕飯は断ってぶどう酒とおつまみを貰って部屋に戻る。
しばらくするとステラがきて、また遅くまで他愛もない話をして本を読んで飲み明かす。
朝はいつもの様に状態異常回復と浄化の魔法をかけてステラを送り出してあげる。
ラスボスチート恐るべし。 それより早起のフリルはもっと恐るべし。
せっかくなので朝食をもらって市場へ向かう。
うっはぁ〜、刀発見〜♪
魔道具や骨董品を置いてる店に刀が数本おいてあるのを発見。
サビサビの鞘無し一本、鞘有り三本。店主に断りを入れて鞘から抜こうとしたけど二本は抜けなかったし後の一本は抜けたけど刃がガタガタだった。
ローブの生地もイマイチだったしなかなか良い物は見つからない。
市場を回ってもまだ時間は早い。
お店でフルーツジュースとナンピザみたいなのを買ってギルドに入る。
朝のギルドは忙しい。依頼を受ける人、依頼が終わって報告にきた人、様々だ。
今日は依頼を受けるつもりはないけど一応目を通してから、いくつかある立ちテーブルについてフリルを眺めながらナンピザをかじる。
朝は知ってる顔もチラホラあって時折話かけられたり、目をそらされたりもする。
ナンを食べ終わってジュースを飲み干してテーブルを離れようとした時、ギルド内に怒声が響きわたる。
ギルド内は喧嘩だってしょっちゅう。
ふぅ、元気だなぁ、朝からしなくてもっ。
上半身裸に背中にハンマーを付けた筋骨隆々の男に向かって強そうには見えない軽装の少年が喚く。
あらあら、や〜ね〜かぁーさん、冒険者ってすぐ他人に絡みたがるのよね〜。
なーんて横目に見てたらフリルと目が合う。フリルが頷くので右手で親指を立てて返す。
ちょっいとボルテージ上がってきたからね。
ゆっくり二人に近づいて周りの人の壁に混ざっておく。
「ここはお前さんみたいなお坊ちゃんが来るところじゃねぇーんだわ。 さっさとママの所に帰った方が良いんじゃねーのぅー」
ムキムキマンは二人パーティみたい。見た事は無い顔かな? わざと下品な笑いをあげている、安い挑発。 少年は一人かぁ?
「…………」
少年は怒り心頭みたい。相手を睨みつけ歯を食いしばる。そしてついに腰の剣に手を掛けた。
「抜けよ腰抜けー。 どしたぁ、抜いてみろよぉーー。 テメーの剣は飾りかぁー? そーかー、おもちゃだろー」
「ウォォォォォォォ」
カチャリ、我慢の限界にきた少年はついに剣を抜き……抜けなかった。
剣の柄頭をボクが抑えたからだ。
「そこまでっ。それ以上は大変な事になるから。 あなた達も新人いじりはその辺にしときなさい」
少年を抑えたまま二人を見据える。
「ああん。 良い格好しぃかよぅ? 小さい奴が揃っちゃってさぁ。 ここは学校かぁー?」
「うっさいわねぇ、さっさと行きなさいよ、このオーク顔っ」
「んだと、テメー」
私の肩をつかもうとした手をひねって、そのまま投げつける。良い音と共に男の背中が床に打ち付けられる。
動いたもう一人にみぞおちに掌底を打ち前のめりになった所を背負って床に叩きつける。
フードをとって髪をなびかせ勝利ポーズをとってやる。
「遊びがすぎますよ。 それでは勝つ事はおろか、私に触れる事も出来ませんね」
湧き上がる歓声! 私の名前を呼ぶ声や、チラホラ「こないだの広場の……。」なんて声も聞こえてくる。
「あの……、ありがとうございました……」
少年が頭を下げてきた。
「そ、それで、いまから、一緒に依頼を受けませんか……?」
少年の顔はすこし赤くなっている。
「お断りっ!」
良い笑顔で応えてあげた。
「それにぃー、君はあっち!」
少年が顔を向けると、こめかみに筋を浮かべて笑顔を浮かべたコワモテが立っている。
三人にはきついお説教である。
ギルド内での抜剣なんて事になれば除籍や刑罰の対象にだってなりえる。
だからフリルは当事者達の為にも大事になる前にベテランさんに対処を頼むのだ。
出来る女性ステキ!
フリルに小さく手を振って、出ようとするボクに近づいてくる人がいる。