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いつもお読みいただきありがとうございます!

おじい様達が領地からやってきて一番良かったのは、母が父を責めるのをやめたことだろう。エリーゼおばあ様が「パロマが一番辛いのに親が揉めているところを見せるんじゃありません」と叱ってくれたからだ。


現在、弟と妹はおばあ様とゼインおじ様と遊び、私はアシェルおじい様とお茶を飲んでいる。もちろん学園はサボりという名のお休みだ。

おじい様はいつも通り、爬虫類や両生類の図鑑を嬉しそうに眺めている。おそらく外国から取り寄せたものだ。愛読しているすり切れた図鑑ではない。


これはパロマローズが小さい頃から変わらない光景だ。領地に行けばおじい様と一緒によくオタマジャクシを捕まえたものだ。


「おじい様」


「うん?」


図鑑を読んでいても、呼びかけるとちゃんと図鑑を閉じて顔を上げてくれるのがおじい様だ。細かいと言われるかもしれないが、パロマローズは彼のこういったところが好きだった。


「私は彼を許せるでしょうか?」


「許せるよ」


「そんなにあっさりと……エリーゼおばあ様も婚約解消の際は苦しまれたと……」


「他人を許す、許さないはあまり関係ないかな。でも、パロマは自分を許せるのかな? 自分を責めたり、後悔したりしないかい?」


アシェルおじい様の問いかけに口を噤むしかなかった。


「自分を許すことが一番難しいよ。エリーゼも長くかかった」


パロマローズは知っている。

おじい様が第二王子だった頃、おそらくおばあ様と婚約されたあたりだろう。おじい様は「残念王子」とか「他人を脱力させる天才」とか「決めるべきところで絶対決めない王子」だとか言われていたらしい。ゼインおじ様から聞いたことだ。


でもエリーゼおばあ様の言い分は違う。

「人に興味がなさそうに見えるけど。とってもマイペースで、とっても優しくて。そしてとっても鋭い人よ」と。


パロマローズは返事ができないまま唇を噛む。おばあ様の仰ることは本当だった。確かにおじい様は鋭い人だ。的確に弱いところを抉ってくるのだから。


***


おじい様達がやってきて、それからハーコート伯爵家が謝罪に来た。

パロマローズは同席しなかったが、母も父もやたら気合を入れて準備していた。おじい様とおばあ様も同席するという最強の布陣である。


私はゼインおじ様に見守られながら別室でレイフと最後の会話をしていた。ゼインおじ様の視線は見守るには鋭すぎるが、妖精と呼ばれた元婚約者はさすがと言えばいいのか全く怖がっていない。


「こんなことになってごめんね」


妖精と謳われるにふさわしい端正な容貌のレイフは、罪悪感など全く見えない表情で口火を切った。謝罪なのにどこかふわふわした雰囲気が漂う。


「どうして……あんなことしたの?」


「パロマローズのことが好きだったからだよ」


全く答えになっていない。ゼインおじ様の視線がさらに鋭くなる。


「それは答えになっていないわ」


「ううん。僕の答えだよ。僕はパロマローズのことが好きだった。身分でも頭の出来でも釣り合わないって言われていてもね。でも、パロマローズは僕のことが好きじゃなかった」


「そんな……こと……」


「パロマローズが僕のことを好きじゃなかったのは別にいいんだ。政略結婚だって割り切れるから。でもね、君は僕のことを愛するフリをしたんだ。好きでもない僕のことを」


レイフは一体、何を言っているんだろう。婚約者なら愛する努力をするのは当たり前じゃないのだろうか。そう思いながらも口の中がカラカラに乾いていく。


「ふふ。結構ね、傷つくよ。好きな人が明らかに僕のこと好きじゃないのに愛するフリをしてる。これほど苦しいことはないよ。だって、明らかに僕は愛されない存在だって突き付けられているんだから」


「レイフ……私は……ちゃんとあなたのことを好きだった」


そう言うと、レイフは悲しそうに微笑んだ。


「パロマローズも分かるんじゃない? 好きな人が自分を絶対に愛さないあの絶望を」


私は何も言うことができない。訳の分からないことを言うレイフに怒りの言葉をぶつけることもできるはずなのに、できない。私はその絶望を知っている。好きな人に愛されない絶望を。


「だから……こんなことになってごめんね。あの絶望から逃げたくて僕は浮気した。これから学園を退学になって、彼女と結婚するんだ。でもね、パロマローズ。君は幸せになってね。絶対に」


「そんな……無理よ……」


うまく言葉が出ない。あんな風に裏切られてどうやって人を信じればいいんだろう。


「諦めないでよ」


レイフの不貞が原因でこうなっているはずなのに、当のレイフは若干悲しそうではあるが悲壮感はない。


「本当にごめんね」


もう一度、レイフは小さい頃の様に困ったように笑った。


そこで何と返したのかは覚えていないが、気づいたらパロマローズは自室にいたのだった。


★既刊情報&特設サイトについて★

2月14日に発売された「憧れの公爵令嬢と王子に溺愛されています⁉婚約者に裏切られた傷心令嬢は困惑中」の特設サイトができました。


https://www.cg-con.com/novel/publication/09_treasure/02_dekiai/


こちらでWEB限定SSも公開中です。

本をぜひお手に取って頂ければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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