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帰宅すると上を下への大騒ぎとまではいかなかったが、屋敷の空気がピリついていた。特に母の。
「パロマ、王宮の使者から聞いたわ。大変だったわね」
明らかに気持ちが臨戦態勢の母に抱きしめられる。うわぁ、この笑顔は相当怒ってるわ。
「昔あんな男との婚約を決めた責任を取らせて、旦那様を屋敷からしばらく追い出しましょうか」
え、お父様に怒ってるの? いや、確かにあの婚約はお父様が決めたから成立したんだけど。
それにしても、後ろでお母様付きの侍女が同意を示すように頷いているのもどうかと思う。
「ウェセクス侯爵家だって味方についてくれると思うわ。私のお母様だって不貞する婚約者には大変厳しいもの。それにお義母様とお義父様もあの婚約にはあまりいい顔はしておられなかったし。あ、お二人も今回の件で呼んでおいたわ。二日もしたらこちらに到着するでしょう。そうしたら詳しいお話合いね」
「奥様、失礼します。お嬢様は疲れておいでです。どうかこちらでお話を」
エリーゼおばあ様とアシェルおじい様も今回の件で王都に出てくるようだ。それにお母様の母、つまり先代ウェセクス侯爵であるフライア・ウェセクス様まで出てきたら凄いことになるだろうなぁと他人事のように考えていると、侍女が助け船を出してくれた。
「そうね。ひとまず制服を着替えていらっしゃい。それから夕食にしましょう」
夕食の席で、父は小さくなっていた。これは相当母に絞られたに違いない。いつもより遅い夕食なのでまだ小さい弟と妹は先に食事をとったようだ。
「パロマは……その……いいのか? 王太子妃、つまり王妃になるんだぞ?」
「旦那様が権力集中は良くないと変な令息と婚約させるからこんなことになるのではないですか」
夕食の席は夫婦喧嘩だ。母はネチネチと父を責める。
空気はピリついているが、私は今日起きた出来事が大きすぎてそれどころではない。
「それに婚約者のいない令息でうちと釣り合いがとれるのは、婚約を取りやめる王太子殿下かデイヴィット……くらいではないですか」
お母様はデイヴィットの後に少し言い淀んだ。カルロスを思ってのことだろう。
「いや……普通、不貞などするとは思わないじゃないか……」
お父様の声は段々小さくなる。
「お母様、大丈夫ですわ。私にも責任があるかもしれません。それにレイフが不貞をする方だとは私も思っていませんでした。お父様のせいではありませんわ」
父のせいだなんて思っていない。権力がうちに集中しすぎないように、そして派閥のバランスも考えて父が婚約を決めたのを知っているから。
私の元婚約者の名前はレイフ・ハーコート。伯爵家の令息だ。もう名前を呼ぶこともないだろう。
小さい頃、私とレイフの関係は良かった。仲だって良かった方だと思う。変わったのは学園に入って、レイフがチヤホヤされ始めてかしらね。
「パロマ……。ハーコート伯爵家には必ず……報いを受けさせる」
母も全て父の責任だと思っているわけではないが、どこかに怒りをぶつけたいらしい。ぎゅっと唇を引き結んでいる。父がこう言うからには伯爵家はおそらく金銭的に大打撃を受けるだろう。母の前でだけ父は頼りなく見えるが、母の前以外ではちゃんと公爵家当主なのだ。
数日、屋敷には鬱々と空気が広がっていた。
私も元気に振舞うのは難しい。母は笑顔でピリピリしているし、父は事態の収束に忙しい。
そんな鬱々とした空気を払ったのはやっぱり……。
「やぁ、パロマ。来る途中でヘビの脱皮した抜け殻を見つけたんだ。見るかい?」
「まぁ、先に新商品のアップルティーから飲んでもらいましょう?」
「え、抜け殻は馬車に置いてきたんですが……そもそも紅茶とヘビの話一緒にするのやめませんか?」
領地からやってきたアシェルおじい様とエリーゼおばあ様、そしておじい様の側近のゼインおじ様だった。
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