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「は? 何言ってるんだ。ローズ、大丈夫か? やっぱり婚約者のことが相当ショックだったんだな」
「違うわよ。デイヴィットは私のこと、ローズなんて呼ばないわよ」
パロマローズは腕を組み、外見はどう見てもデイヴィット・ウェセクスにしか見えない男を睨む。彼のようなストロベリーブロンドの髪はそうそういない。といってもパロマローズの髪も彼よりも薄めのストロベリーブロンドなのだが。
目の前の彼がデイヴィット・ウェセクスではないのなら、一体誰だろうか。まさかおとぎ話のように魔法で変身しているとか?
今日は出来事が多すぎて変なことを考えそうになる頭を軽く振る。
もしもこれが変装だとして王宮の中まですでに侵入し、パロマローズの前に彼は立っているので、いまさらパロマローズがどうこうしたところで敵いそうもない。
「殺すなら苦しまないようにしてね」
「何を考えているのか知らないが。俺がデイヴィットじゃないとしたら逃げないのか?」
「あなたが暗殺者や誘拐犯ならここに侵入できている時点で私には勝ち目はないわ。それに、逃げるときに殺されたら背中に傷がつくじゃない。背中の傷は女の恥よ」
デイヴィットの顔をした男は目を見開いた。
「そのセリフは正確には『背中の傷は剣士の恥』だろう」
「あら、あなたもあの本を読んでいるのね。じゃあますますデイヴィットじゃないわね。彼は冒険ものや流血ものが全くダメだもの」
同じ本を読んでいたと分かってちょっと嬉しくなったが、上がりそうになった口角を慌てて止める。
「君はバカな箱入り娘じゃないみたいだな」
「誉め言葉として受け取っておくわ」
彼と同じ見た目の人に殺されるなら悪くないかも。
今日は一日いろいろあって疲れてしまった。頭にロクな考えが浮かばない。
叩きつけるようにドアが開いたので、私達の会話はそこで遮られた。しかもドアは開いたのと同じ速度で勢いよく閉まる。
「何をしているんですか!」
入ってきたのは息を切らしたストロベリーブロンドの髪の男性。
「あら、デイヴィット」
こちらがデイヴィット・ウェセクスだ。
「パロマ! 無事か?」
「一応ね」
良かった。自信はなかったが、入ってきた方が本当のデイヴィット・ウェセクスだ。デイヴィットは私のことをローズではなく、パロマと呼ぶ。公式の場で呼ぶことはないから家族や親戚以外はこのことを知らない。
「あなたは何をなさっているんですか。あなたの婚約者の取り調べに行っていると思ったのに」
「あの女にこれ以上会いたいわけがないだろう」
デイヴィットがデイヴィットに噛みついているように見える……。同じ容姿でも並ぶと雰囲気の違いが出るものだ。こうしてそっくり同じ二人が揃っている光景を見るのは久しぶりだ。思わず感傷に浸りそうになる。絶対に私は疲れている。だって、今日はロクなことを考えていないのだから。
「いい加減、その変身をやめてください。殿下」
「意外と楽しめたし、そろそろやめておくか」
偽デイヴィットが手首のアクセサリーに触れる。
あぁ、本当に今日は良いことがない。手首のアクセサリーに触れ、一瞬で現れたのは王太子殿下だったのだから。
やってられないわよ……と思いながら、冷めきったテーブルの上の紅茶を口に含んだ。