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端正で美しい容姿から私の婚約者である令息は妖精と呼ばれていた。
大変可愛らしくふわふわした容姿から令嬢(王太子の婚約者)の方も妖精と呼ばれていた。妖精って性別は関係ないのね。
「フェイトリンデ嬢」
妖精でもほんとにやることはやるのよね。なんか幻滅だわ。いや、これは妖精さん達に失礼か。周りが人間を勝手に妖精と呼んでいただけなのだから。
「フェイトリンデ嬢?」
はぁ、これってどうなるのかしら。自分の婚約者の浮気相手?が王太子殿下の婚約者って。いやー、もしかしてうちにもお咎めある?
「パロマローズ・フェイトリンデ嬢!」
「あ、はい! ってなんだ。デイヴィットか」
今日は名前をやたら呼ばれる日だ。うっかりヤバい場面を目撃した後、なぜか学園にいるはずのないデイヴィットが資料室にやってきて、あの場にいた全員を王宮に連れてきたのだ。
残念ながら今は別々だ。口裏合わせないように別で取り調べるつもりなんだろうなぁ。生きて帰れるかな……。
ちなみにデイヴィットとはデイヴィット・ウェセクス侯爵令息だ。お母様の兄の子供だから従兄弟になる。
私達は幼馴染と言っても良いくらいの関係で、子供の頃はよく一緒に遊んでいた。そういえばデイヴィットは王太子殿下の側近だったわね。
「デイヴィットにフェイトリンデ嬢って呼ばれると変な感じ」
「屋敷にいるわけじゃないんだ。ローズって呼べるわけないだろう。それより大丈夫か?」
「……? そうね、大丈夫よ。まだ状況が理解しきれていないだけ。にしてもデイヴィットは出世したわねー。王太子殿下の側近でしょう?」
引っかかりを覚えながらデイヴィットと話を続ける。
「側近というか何でも屋だよ。ほんとに何でもやらされるんだ」
「大変ねぇ。ところで私達って今、取り調べを受けている状況なのよね?」
「取り調べは当事者のあいつらだけだよ。あいつらもフィンチ男爵令嬢やクライトン伯爵令息だけに見られていたなら脅して黙らせることができたかもしれないが。ナサニエル・バイロンに見られたんだ。目撃者としてこれ以上ないくらいにどうにもできない相手だな」
「そうね。先生はバイロン公爵家の方だものね」
バイロン公爵家は公爵家の中でも最も力のある家だ。財力はフェイトリンデ公爵家と比べるまでもない。
「本当に大丈夫か? 俺はローズの婚約者のことはよく知らないし、ローズもあまり喋らないからさ……」
「結局ローズって呼んでるじゃない。喋るようなことがないのだもの。私の婚約者は見た目も妖精、中身も妖精なのよ。妖精さんに失礼かもしれないけど。ぼんやりしてふわふわしていて、周囲が何でもやってくれるの。それが当たり前。まさか王太子殿下の婚約者とあんな関係になっているなんてこれっぽっちも気づかなかったわ」
「あの二人がいつからとか……そのあたりは今取り調べをしている」
「王太子殿下の婚約者でしょう? 護衛とかついてたんじゃないの? その筋から浮気してたとか報告は上がってないの?」
「基本的にストーン侯爵家でこそこそ会っていたようだから。家まではさすがに監視はつけていなかった。婚約者になってから我儘に拍車がかかって、教育もすすまない上に監視に息が詰まると文句をつけていたからな」
デイヴィットが顔をしかめる。
「元からあの人は蝶よ花よで育てられていたじゃない。ところで、あなた、誰?」