プロローグ
いつもお読みいただきありがとうございます!
いつも同じことの繰り返し。まるで毎日、同じ日をループしているようだ。
朝起きて学園に行く。授業を受けて帰ってきたら復習と予習。
休日は婚約者との約束やお茶会、それらがない日は弟を構い倒す。
こんな日が続くと思っていた。
平穏というのは渦中にいると退屈なのだ。
なーんちゃって。さすがに現実逃避をしすぎかしら。
あぁ早く帰って弟のルークと遊びたいわ。
「おい、フェイトリンデ嬢! しっかりしろ!」
これはナサニエル先生の声ね。今日の先生の授業も面白かったわね。でも、こんなに地図を持ってくる必要はなかったわよね。
「パロマローズ様! お気を確かに!」
あら、アンネの声だわ。まったく。学園だから様付けはなしでいいって言ってるのに。それにしても泣きそうな声ね。
「フェイトリンデ嬢!」
耳元で声を上げられてびくりと肩がはねる。
「えっと……?」
目の前には学園の教師であるナサニエル先生と女子生徒アンネ・フィンチ男爵令嬢。彼らの後ろには男子生徒ローガン・クライトン伯爵令息。
そしてその後ろには……見える前にローガンがガタイの良い体で視界を遮る。
「顔が真っ青だ。大丈夫か?」
あぁそうだった。
語学の授業だったけど先生の体調不良で急遽授業がなくなった。そうしたらナサニエル先生が「みんなの大好きな歴史の授業をしよう!」って言いだして。
自習を歴史の授業にしちゃったのよね。授業数はどうせ後から調整するんでしょう。
今日の授業では地図が説明で必要な部分だったのよ。それでたくさんの地図を先生が持ってきて。
さらに提出物もあったから授業後はナサニエル先生一人じゃ持って帰れなくて。
私とアンネとローガンの三人が先生に指名されて運ぶのを手伝ったのよね。
ナサニエル先生って公爵家のご出身で学園教師になった変わり者だから、高位貴族のご令息でもご令嬢でもバンバンこういう荷物持ちに指名するのよ。ある意味、平等でいいと思っているわ。
そして、地図を元の場所に戻すために資料室にみんなでやってきた。
そうしたら……。
「妖精と呼ばれていてもやることはやるんですのね」
「君、さすがに開口一番それはないだろ」
「うっ……ぐすっ。こんなのひどい……」
ナサニエルはなぜか辛そうに笑った。
アンネに至っては泣いており、ローガンは時折怖い目で後ろを振り返っている。
まさか資料室で男女の睦み合いを目撃することになるとは思わなかった。
資料室と言っても最近改装されたばかりでとても綺麗なのだ。地図やら他の資料も新しいものに一新された。だからナサニエルは得意げにたくさん地図を持ってきたのだ。
ただ、この資料室。綺麗になったのはいいのだが、以前と場所は変わっていないので廊下の隅の方にあるのだ。
問題なのは何かというと。
若干乱れた服装で顔を赤く染めている男女。これから盛り上がりますって感じの雰囲気だ。女性が男性の上に乗っているのはご愛嬌だろうか。
いやそれより問題なのは。
下にいる令息が私の婚約者であることだろうか。
いやいや、それより問題なのは。
上に乗っかっている令嬢は……王太子の婚約者であることだろうか。
「傍観者ならこれ以上なく面白い立場だったのに」
「フェイトリンデ嬢。もう何も言わなくていいから」
私はパロマローズ・フェイトリンデ。フェイトリンデ公爵家の長女。
今、人生最大にヤバい場面な気がします。いや、ヤバいのはこれからか。