球技大会――2
球技大会当日。
男子バスケの試合は、三つある体育館のうち第二体育館で行われることになった。
第二体育館には、バスケットボールコートが三つ並んでいる。
一回戦。俺はチームメイトとともに真ん中のコートに立った。
相手は二年五組。普通科ではあるが、現役バスケ部員が四人も参加している。初っぱなから強敵だ。
センターラインに整列し、相手チームと対面する。
俺はゼッケンの上から左胸に手を当てた。試合前なのに脈が速い。手汗もスゴいし息も上がっている。
それでも、プレイできないほどじゃない。
行ける。大丈夫だ。活躍しなければ問題ない。
心のなかで何度も何度も言い聞かせ、緊張を鎮めていく。
隣で心配そうに見ている翔に『大丈夫』の意を込めて頷き、ゆっくりと深呼吸した。
「では、三組と五組の試合をはじめます」
「「「「「「「「「「お願いします!」」」」」」」」」」
体育教師の号令でそれぞれ礼をして、センターサークルの周りに散らばる。
互いのチームで一番背の高い選手がセンターサークルで相対し――体育教師がボールを放り上げた。試合開始だ。
ボールに手が届いたのはこちらの選手。弾かれたボールが敵陣に転がる。
それを翔がとった。
翔はネコ科の肉食動物みたいなスピードでドリブルし、一直線に相手のゴールへと突っ込む。
相手チームがディフェンスに回ろうとしたが、もう遅い。
翔は全身のバネをしならせて大ジャンプ。ボールを高々と掲げ――
ガシュッ!
豪快な片手ダンクを決めた。
「「「「「「「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」
体育館を揺らさんばかりの歓声が上がる。開幕一番ダンクシュートが飛び出せば、そりゃあ盛り上がるだろう。
本当にバケモノじみた身体能力してるよなあ、翔は。たしかに背は高いけど、一八三センチでダンクするのはかなりの難度なんだぞ。
翔のスーパープレイに、俺は乾いた笑みを漏らす。いまだに歓声が収まる気配はない。
俺たちが自陣に戻るなか、翔が俺にウインクをよこした。そのウインクで思い至る。翔がいきなりダンクをかました理由に。
翔は自分が活躍することで、相対的に俺を目立たせないようにしてくれたんだ。トラウマを持つ俺を気遣って。
このイケメン! やることがいちいちカッコいいんだよ!
「助かった、翔」
ボソリと呟いて、口端を上げる。甘えてばかりいられない。俺も気合を入れないとな。
相手チームがゴールを決めて、再びこちらのターン。
スリーポイントラインに立つ俺にパスが回ってくる。ボールを受けとった俺は即座にシュート――のフェイクをいれた。
俺をマークしている選手がフェイクにつられてジャンプしてしまい、驚きに目を見開いている。
ジャンプしている相手に俺を止める手段はない。ドリブルであっさりとディフェンスを突破し、そのままゴールへ突き進む。
とはいえ、相手も簡単にゴールさせるつもりはないようだ。翔のマークをしていた選手が俺を邪魔しにきた。
だが、邪魔しにきたということは、翔のマークが外れたということ。フリーになった翔がゴールに走ってきている。
なら、翔にパスしてしまえばいい。
振り返って翔にパス。ボールを受けとった翔はまたしても大ジャンプして、ゴールにダンクを叩き込んだ。再び体育館が沸き立つ。
いや、流石にやりすぎじゃね?
大暴れする翔に頬を引きつらせながらも、俺は手応えを感じていた。
体が動く。頭も働く。ちゃんとプレイできる!
「――乗り越えてやる」
ほかの誰でもなく、自分に向けて呟いた。
その後も、ボールを自陣から敵陣に運ぶ手伝いをしたり、パスが受けとりにくい位置にいる選手への中継点になったりと、裏方の仕事をきっちりこなしていく。
翔の大活躍もあり、試合はこちらが大幅にリードしていた。
しかし、懸念材料がひとつある。相手のディフェンスが機能しはじめたことだ。
理由は簡単。俺がシュートを打っていないから。
得点力のない選手をマークする必要はない。必然的に四対五の構図となり、こちらが不利になる。得点の伸びも悪くなってきた。
気は進まないが、この辺りで俺を警戒させないとな。
ボールが回ってきた。俺の相手は距離をとって守っている。シュートはないと踏み、ドリブルにだけ気をつけているんだ。
だから、ここで打つ。
ふわりと跳躍し、手首のスナップを利かせてジャンプシュート。俺の放ったボールは半月の弧を描き、吸い込まれるようにゴールリングをくぐった。
ワッ! と上がる歓声。
その歓声に俺の肩が跳ねる。胃がずっしりと重くなる。
俺は歯噛みした。
昔は嬉しかった歓声が、いまはただただ怖いんだから、皮肉なものだよな。