表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/33

球技大会――1

 南陵高校では、四月下旬に球技大会が行われる。新しいクラスメイトとの親睦(しんぼく)を、競技を通して深めることが目的らしい。たしかに競技で団結すれば、チームメイトの仲は深まるだろう。


 球技大会は一週間後に(ひか)えている。そこで二年三組では、LHR(ロングホームルーム)を利用して生徒の参加種目を決めることになった。


 生徒はそれぞれ希望する種目を紙に書き、箱に入れていく。


 全員が希望種目を決めたあと、女子のクラス委員長が箱から紙を取り出し、読み上げていった。


「熱海くんはバスケね」

「熱海がバスケ、と」


 生徒の名前と希望する種目が知らされる(たび)、男子のクラス委員長が、黒板に書かれた種目の下に線を引き、人数を記録するための『正』の字を作っていく。


 その結果――


「男子サッカーが定員オーバー。野球・バドミントン・バスケが人数不足ね。サッカーを選んだ男子たちはくじ引きをしてください」


 女子のクラス委員長がそう言って、俺は「うげ……っ」と(うめ)いた。俺が希望したのがサッカーで、人数不足の種目のなかに避けたいものがあったからだ。


 ふたりの委員長が手分けしてくじ引きを作るなか、俺は(しぶ)い顔で頭をガリガリと()く。


 マズいな……くじ引き次第で()()()()になってしまうぞ。


 種目が(しる)された紙が箱に入れられた。男子のクラス委員長が箱を抱え、サッカーを希望した男子たちに引かせていく。


 そしてついに、俺の前に箱が差し出された。


 手汗が(にじ)み、鼓動が早まる。緊張のなか、俺は箱に手を突っ込んだ。


 頼むぞ、神さま。俺に()()を引かせるなよ。断じて振りじゃないからな。


 残る三枚の紙から一枚を選び、意を決して手を引き抜く。


 折りたたまれた紙を開くと、そこに書かれていた種目は――


『バスケ』


 ドッ! と鼓動が跳ね上がった。


「相原はバスケに決定」

「残念だけど頑張ってね、相原くん」


 ふたりのクラス委員長の声が、どこか遠く聞こえる。


 振りじゃないって言っただろ……恨むぞ、神さま!


 動揺に息が上がるなか、俺は内心で毒づいた。


 玲那と結婚できたことで、俺の運は(いちじる)しく減っていたらしい。


 男子のクラス委員長が次の生徒へ箱を差し出しに向かうと、前の席に座る翔が振り返る。翔は眉の下がった不安そうな顔をしていた。


「大丈夫かい、涼太?」


 事情とトラウマを知っている翔は、俺を心配してくれているんだ。


 いまだに心臓はうるさく、かすかに手が震えている。


 それでも俺は答えた。


「大丈夫だ」

「……わかった」


 俺が腹を(くく)ったのを察したのか、翔はそれ以上なにも言わなかった。


 俺は翔の気遣(きづか)いに口端(くちはし)を上げる。相手の意志を尊重(そんちょう)するその姿勢も、翔がモテる要因なんだろう。


 正直、不安で不安で(たま)らない。上手くプレイできるか(さだ)かじゃないし、下手したらパニックに(おちい)るかもしれない。


 それでも、いつまでもトラウマから逃げ続けるわけにはいかない。いつかは乗り越えなくてはならないんだ。


 静かに目を閉じる。まぶたの裏に浮かぶのは玲那の笑顔。


 誓っただろ、頼れる夫になるって。決めただろ、玲那を支えられる男になるって。玲那はいつでも俺に尽くしてくれるんだ。少しでも(むく)いないといけないだろ。


 ふぅー……、と長く息を()いて、俺は目を開けた。


「いい加減、乗り越えないといけないんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ