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「伯父様……。今月の保存食や薬草の仕入れ、多くないでしょうか? 一体、何に使用されるんですの?」



 朝、書斎でいつも通り、領地のお仕事をしている時の事。

 本日伯父様は、外出の予定があるとかで、いつもの平民服ではなく、パリっとしたシワ一つないワイシャツと、ベージュのベストに身をつつんでいる。


 やっぱり、伯父様ってちゃんとした格好するとかっこいい。

 いや、いつもかっこいいんだけど、やっぱり元がいいんだわ。

 金髪碧眼、すらっとした体躯……、これぞ、ザ・テンプレ・王子。



「ああ、それはウォルフから頼まれていたヤツだから、うちのじゃないよ。

 個人で買うより僕から依頼したほうが単価が安くなるし、納品場所もうちのほうが届けやすいってことだったから、こっちにしてるんだよ。納品書の宛名は別になってるでしょ?」



 机の上に置かれた黒の鞄に、どっさり資料を詰めこみながら、伯父様は私の問いに、間を置くことなく返答した。

 イケメン度がアップしたお出かけ仕様の伯父様に少々見とれつつも、私は慌てて手元に視線を戻す。


 前世の職場のナースが、「スーツ着てる時の製薬会社の営業って、いつもの3割増しでかっこよく見えるから、騙されちゃダメだよ?」って言ってたな。

 製薬会社の人だけじゃなくて、どの男性もそうだと思うんだけど、スーツマジックってマジで半端ない。


 是非、世の男性諸君は、意中の女性にアタックする際には、仕事帰りにするか、もしくはデートに誘った日なら、「ごめんっ! 休日出勤でスーツのまま来ちゃった」と苦しい言い訳をしてスーツを着ると良い。


 スーツを持っていなければ、是非アタック用スーツの購入を検討して頂きたい!

 ブカブカの体にフィットしていないヤツじゃなくて、足が長く見えるヤツがいい!



 絶対イけるから!!(九分九厘(たぶん)



 はっ! また妄想の世界に飛んでしまっていた!

 いけない、いけない。



「あ、ほんとだ……。ではなくて、見逃しておりましたわ。失礼いたしました、伯父様」



 手に持った納品書を見てみれば、宛名はウォルフ先生の名前になっている。

 つい先ほど、消耗品や備品を買っている商会から、今月分の請求書が届いたので、私の机に積まれた納品書と付け合わせをしていたんだけど。


 請求書にのってないモノがちらほらあって、しかもその数量がすさまじかったので、ついエマニエル伯父様に確認をとってしまったという次第である。



 なんで、うちの納品書と混ざってんだろ。

 紛らわしいっ!!



 というか、ウォルフ先生、保存食や薬草なんて何に使うんだろう。

 食料なら保存食じゃなくて、町に行けば普通に手に入るし、薬草だって、病院や診療所があるんだから、わざわざ常備しなくてもいいような気がする。



「こんなにたくさん、何に使うんですの?」



 ウォルフ先生宛ての納品書が意外とあったので、不思議に思ってエマニエル伯父様に尋ねてみる。

 すると、伯父様は首を傾げ、パチパチと目をしばたいた。



「ユグタナに送っているんだよ? あれ、言ってなかったっけ?」


「きいてないですわ、伯父様」



 基本的にエマニエル伯父様は聞いたことは『大雑把(おおざっぱ)』には教えてくれるけど、私がピンポイントで尋ねないかぎり、詳しくは教えてくれない。

 それどころか、すでに言ったつもりでいるらしい。


 ユグタナと言えば、この間ジェーンからきいた話が記憶に新しい。

 アリーやガイ、ジル、村はずれに住んでいる皆の故郷である。


 もともとは、ジェーンの一族が住んでいて、そこへ故国を捨て、逃げてきたアスタナの人がやってきたという歴史がある。

 ジェーンの一族とアスタナの人達との子孫である赤茶髪の人々が多く住むユグタナ。


 そういえば、アリーやウォルフ先生は金髪だけど……。

 突然変異で金色の髪をもった人たちが生まれてきたのだろうか……。

 それとも、ジェーンとは別の部族だったのだろうか?



「ほら、ウォルフは今ネイマルからの難民を助けているでしょ?

 でもね、山を越えられない人もいるから、最低限必要な物資を送る支援も始めたんだよ。

 だいぶ人も集まってきたし、山賊も最近はあらわれないからね」


「そうだったのですね……、知りませんでした。

 たしかに、剣や防具以外にも、最近倉庫にたくさん荷物が積まれているなとは思っておりましたが……」



 何故、ユグタナの人々が難民となってアスタナに来ているのかは、詳しい事情は分からない。

 以前ウォルフ先生から、国の産業となっている氷を王族貴族が独占しているとは聞いたが、それが理由で土地を離れるほど貧困にあえいでいるのだろうか。


 もともと、氷産業などに頼らなくても、ユグタナで生活できていたのに、なんでみんなアスタナへ来なければならなかったのだろう?



 残念ながら、歴史的資料に関してはお父様からの報告書にはないし、エマニエル伯父様にきいても、他国、特にネイマル王国は自国の情報を外に漏らしたがらない、ということで分からないらしい。


 でもやはりおかしい……。

 なんか『大事なところ』だけ作為的に隠されてるような気がするのは、気のせいだろうか……。


 先日、町にある子どもや大人のための、本が自由に読める『ナグタナ資料館』に行ってみたところ、ネイマル建国時の歴史書もあった。

 館内の蔵書は基本、貸出禁止で、その場で読むしかなかったから数日通ってしまった。


 けど、ジェーンの言う赤毛の一族や、アスタナからの難民なんて一切載ってなくて、書いてあった事といえば、ある時に神がネイマルの地に降り立ち、3つの部族をまとめ、一つの国をつくった、としかなかった。


 建国時というより、建国神話に近いような気がした。

 本当に情報が少ない。いや、あるのに隠しているのだろうか。

 公表していないだけだろうか。



 それとも言えないのだろうか……。



 ウォルフ先生、アリー、ジル、ガイたちの顔が浮かぶ。

 そうだ、難民として逃れてきた皆なら分かるはずだ。

 直接本人たちにきけばいいのだ。


 でも……、中途半端に首を突っ込んでいいのだろうか。

 聞いたところで何も出来ないくせに、知りたいって理由だけで訊いて。

 思い出したくない過去を掘り返す行為は、ただの自分勝手な行動に過ぎないのではないだろうか。



 野次馬根性丸出しで、誰かを傷つけたくはない。



「あ、気を付けてね。ユパナ商会からは、うちが経営してる宿屋で使うタオルとかシーツも買ってるから、ウォルフに渡すのと混ぜないようにね」


「わ、わかりましたわ、伯父様。もう一度宛名を確認してからウォルフ先生にお渡しいたしますわ」



 考え事をしながらだったからか、今手に持っているシェルトネーゼ家宛ての納品書を、危うくウォルフ先生に渡す書類の束に混ぜてしまうところだった。


 危ない、危ない。

 でも、エマニエル伯父様、よく気がついたなあ。

 仕事を私に押し付けて、自分は左うちわで、のほほんとやっているように見えて、実のところ部下の仕事をすみずみまで観察しているなんて……



 目ざといっ!!!



「じゃあ、エルーナ。僕は外出してくるよ。実をいうと今日は、ユパナ商会の商会長に会うんだけど……、何かきいておきたいことはあるかい?」



 支度が終わったのか、椅子に掛けた黒のコートを羽織る伯父様。

 私は1つどうしても聞いておきたいことがあったので頼むことにした。

 でも、わざわざ商会長に言うことでもないと思うんだけど……せっかくだし。



「あの……、納品書が何枚か見当たらないものがあるのですわ。もし再発行が可能であれば、お願いしたいのですが……」



 今月は行方不明のものが多く、いつもより仕事の進みが若干遅い。

 しかも、ウォルフ先生のものが大量に混ざっている。

 探している暇があったら、新しいものを取り寄せたほうが早いのではないかと思ったのだ。



「あ、そうなんだ。分かった。じゃあ、再発行出来るかどうかきいてみるよ。

 とりあえず、向こうに受領書があるかどうか確認したほうがいいと思うから、どの分の納品書がないのか、後でまとめておいてくれる?」


「はい、わたしましたわ。伯父様」


「じゃ、行ってくるね」


「いってらっしゃいませ」



 私は深々とお辞儀をし、伯父様を見送った。

 ユパナ商会の商会長か……。

 ふと、社判が押された請求書が目に入り、私はそこに印字された人物の名前を頭の中で読み上げた。



 ユパナ商会

 商会長 エヴァンス・ユパナ・コングラッド



 コングラッド男爵家の領主兼ユパナ商会の商会長を務めている。

 先日ゴフタナ村に行った際、人身売買や紫水晶の不正売買が行われていた場所こそが、このユパナ商会 ゴフタナ第2営業所のある建物だったのである。


 営業所といっても、1階部分は壁もなく柱だけで、2階へは外階段が備え付けられていた。

 1階部分は貸店舗。2階が営業所で、1階はユパナ商会とは関係がないらしい。


 でも、人身売買と不正売買が行われている場所の上に、営業所があるのって……

 しかも、ゴフタナ村はコングラッド男爵家の領地のうちの一つである。



 やっぱ、怪しい……



 ガイの弟スイの件は片付いたけど、継続してこの件は調べて行こう。

 自分に何が出来るか分からないけど、何か出来ることを探さなくちゃ。

 そのためには、まず情報を集めないとね!


 私はユパナ商会の詳細な情報を求め、急いでお父様宛てに手紙を書くことにしたのであった。


あ、どうも、ぽぽろです。


みなさん「手のひらを太陽に」は聞いていただけましたでしょうか。

是非、まだの方は聞いてみてくださいね。


あの歌の歌詞をしみじみ聞いてみると、少し不思議なところがあるんです。

僕らはみんな生きているから始まって、『生きているから歌うんだ』の次なのですが、

次に来る言葉が『かなしいんだ』なんです。


2番目の歌詞でようやく、『笑うんだ』『うれしいんだ』が来るのです。

小学生の時だった私はあまりよく考えていませんでしたが、

1番目の歌詞で『かなしいんだ』が来るとは……


私は知らない間に世間の世知辛さというものを教えられていたんだな、とつくづく実感しました。

この曲は3番までありますので、是非一度歌詞を検索して、歌ってみてください。


ではまた次話でお会いしましょう。


ぽぽろ

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