~閑話~ ガイの外伝 ②
突然、ガゴンと音をたて荷馬車が止まり、馬がいななき、今まで座っていた床が大きく傾いて、俺たち3人は宙に浮いた。
スイと赤毛の女の子を抱き寄せ、俺は体を丸め、次にくる衝撃に備える。
ドスンっ――!
荷馬車の中にあった何かが詰まった布袋がクッションになり、俺はしばらくそのまま2人を抱えうずくまっていた。
そこへ……
「ガイっ!!」
その声が最初、俺には幻聴だと思った。
まさか、そんなはずはない……
そんな奇跡あって、たまるもんか……
コイツがここにいるはずなんて……、ありえないはずなのに……!
「ルーン……っ!! やっぱり、来てくれた……っ!!」
やっぱり、コイツはきてくれた。
あの日、俺の事を『許さなくていい』と言ってくれた、こいつが……!
俺はこの時誓ったんだ。
俺はこいつを信じるって。
逆光で照らされた白銀の髪、そして紫色に光る瞳。
たとえこいつがネイマルの神様じゃなくても……
こいつは、俺の――……神様だ。
〇 〇 〇
あれから一か月。
俺はルーンと一言もしゃべっていない。
理由は簡単だ。
俺はあいつが怖い。
剣術大会が終わって、明日にはマルタナ村に着く前夜。
俺は一生懸命、落ち込んだルーンを励ましていたわけだが……
こいつは何を思ったのか……
「ガイ、大好きっ! 僕が責任とってあげるから、大丈夫だよっ!!」
そう言って俺を抱え込むと、なんとこいつは俺の顔面にキスをしやがったのだ。
1回じゃない。何回もだっ!
アリーが、おでこにしたやつとは比べ物にならないくらい、強烈なやつを何べんも、こいつはかましやがった!!
必死に叫ぶ俺を最初は冷やかし半分で騒いで見てたヤツらも、次第にヤバイ雰囲気を感じ取ったのか、不穏にどよめき始めた。
見てるんなら、助けに来いよっ! 誰かーーーーーーーっ!!!
ルーンの唇がおでこ、右目、左目、右頬、左頬と徐々に下がっていくごとに、俺は焦りを感じ始めた。
やばい、このままだと……俺の……!!
いやだっ!! 俺は男となんてしたくないっ! ぜったいに嫌だ!!
た、たしかにこいつは女みたいにキレーな顔をしてるけど、それとこれとは違うっ!
こんな形で俺の『初めて』を失うわけにはいかないっ!!!
「やめっ……、お願いだからっ、口だけは……」
ピクッ……
俺の必死の願いが通じたのか、ルーンは俺の右の頬、口の端すれすれのところで動きを止める。
助かった……と思って、離れていったルーンの顔を見上げてみると、その目は焚火の炎に照らされ、キラキラと紫色の宝石のように光っていた。
ああ、やっぱコイツ、すげーキレーだわ。
神様だ……、やっぱ、コイツ。
なんて、悠長に思っていたら、急にコイツはにやりと笑い、ぺろりと舌なめずりすると、俺の顔を両手でそっと包んだ。
「ちょ、まて……ルーン!?」
頬にかかったコイツの熱い吐息で、俺は悟った。
ああ、俺――……たぶん、ミスったわ……。




