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 私の必死の捜索も空しく、ガイの姿はどこにも見当たらなかった。

 太陽が空の真上に来ようとしている。

 早くしないとあの子たちが港に連れていかれてしまう……っ!



「どこ行っちゃったんだよ、ガイのヤツ……っ」



 村の建物と建物の間、くまなく探しているのに、ガイの姿はない。


 どこかで怪我をして、うずくまっていたらどうしよう。

 いや、そもそも子どもだけで、こんな危険なことをするんじゃなかったんだ。


 ウォルフ先生だって、言ってたのに。

 俺から離れるなよって……、赤茶髪の子どもは攫われやすいって……

 マントを被っていても、隙間からどうしても髪の毛は出て、分かる人には分かっちゃうし……

 


 押し寄せる後悔の念に私は押しつぶされそうになった。



 あの夏の初め、少しずつガイとの距離が縮まった。

 まだ、少しぎこちない時はあるけど、だんだん心を開いてくれている……そんな気がしていたのに。



 なんで、急にいなくなっちゃうんだよっ!!



 もしかしたら、大会の会場に戻ってるのかもしれない……。

 そう思って私はアリーやジルのいる大会の会場へ戻ってきた。


「アリー!」


「どうしたの、ルーンっ!? あれ? ガイは?」



 ちょうど試合が終わったところだったのか、私は運良くすぐにアリーを見つけ、その腕に縋り付いた。

 あたりにガイがいないのを見て、アリーは不審げに眉を顰める。



「ガイがいなくなったっ! ここに来てない!?」


「え……っ!? いや、見てないけど……。い、いなくなったって、どういうこと!?」



 いない……?

 どうしようっ……、いやアリーは試合に出てたんだから、ガイがここにいても気づくはずないもんね。

 もしかしたら、この人混みのどこかにいるかも……。



「ルーン? ウォルフ兄様に言おう! きっとなんとかしてくれる!」


「う、うん……!」



 アリーの提案に私は即座にうなずいた。


 ウォルフ先生には怒られかもしれない。

 でもっ、もう、私だけじゃ無理だっ!

 一人じゃ無理だよ……!

 だって、こんなに人がいっぱいいるのに、どうやって探せっていうんだよっ!


 赤髪の男の子なんて、どれだけいると思ってるんだ……

 ガイに……

 ガイに何かあったらっ……私はっ!!



 あの日、木の下で「ありがとう」と言ったガイの言葉が脳裏によぎる。

 私の事を許さないと言ったガイ。


 でも、ガイはあれからずっと、まだガイは自分を責め続けていて、ようやく進み始めたっていうのにっ!!


 私のせいで……!!



「ルーン……。泣かないで……。お願い、自分を責めないで……?」



 ふわりと私の頭にアリーの大きな手のひらがかぶさる。

 暖かい温もりが伝わってきて、私はごしごしと目からあふれる涙をぬぐった。



 ガイ……、ガイ……、ガイ……っ!!!


 悔しくて、悔しくて、胸が張り裂けそうなほど痛くて、歯を食いしばる。



「行こう……、ルーン。ウォルフ兄様のところへ」



 ぽんぽんと頭をやさしく撫で、アリーは私に背を向ける。



「うん……」



 涙を袖でぬぐい、私は気持ちを引き締める。

 ここで負けちゃだめだっ!

 ガイを探そうっ!


 そう決意し、アリーの後を歩き始めた。



「っ……!?」



 だけど、歩き始めて数歩、キーーーンという耳鳴りと共に、あたりの音が消えて、突然、私の耳のすぐそばで誰かがささやいた。



 ――……助けて……



「え……?」



 あたりを見渡し声の主を探すが、皆、何事もないように通り過ぎていく。

 気のせい……?



「どうしたの、ルーン?」



 こちらを振り向いて不審げに私を見つめるアリー。



 今の……、ガイの声が聞こえた?



 ――助けて……! ルーンっ!!!



「……ガイっ!!」


「あっ、ルーンっ! どこ行くのっ!?」



 私は確信を胸に走り出していた。


 ガイがいるっ!

 あそこにガイがいるっ!



 私は先ほどまでガイを探していた村の中心地へ急いだ。

 人目もはばからず、建物の屋根に上り、屋根と屋根を飛び越える。

 「なんだ、ありゃー」と口をあんぐりあけている村の人の声を無視し、ひたすら前に進んだ。



 あれだっ!!



 数メートル先の通りを、屋根を布で覆いかぶせた荷馬車が走っている。

 荷馬車の後ろの布の隙間から、ちらりと太陽に反射し赤く光るものが見えた。


 あれは……、ジェーンと同じ髪の色の……!?


 何故かはわからない……。

 でも、必ず、あの中にガイもいる……!



 私は地上に降り立ち、2本のうち1本の刀を腰から引き抜き、手に握ると、上半身だけを思いきり後ろに捻り、肩から手へしなるように前へ繰り出した。



「アッタレエエエェェェェェッーーーーーーーー!!!!」



 ヒュンッ――と目にもとまらぬ速さで飛んだ刀は、荷馬車の後輪めがけて一直線に進んで行く。



 お願いっ!! 当たってっ!



 ガゴンッ―――!!



 右の後ろの車輪と荷馬車本体部分に刀が挟まり、急ブレーキをかけたように荷馬車が大きく一度、上に飛び上がるようにして止まった。

 それに驚いた馬が大きくいななき、荷馬車を操縦していた男が「うわっ!」と声をあげる。


 つながれた馬はなお暴れ、揺れる荷馬車は大きく右に傾き、ドスンとけたたましい音をたて横転した。

 あたりに砂ぼこりがもくもくと漂う。



「よしっ!」



 私は急いで荷馬車に駆け寄り、布を押し分け中を覗き込む。


「ガイっ!!」


「ルーン……っ!! やっぱり、来てくれた……っ!!」



 そこにはずっと探していたガイと……、昨日見かけた赤茶色の少年、そしてジェーンにそっくりな赤色の髪をした女の子がいた。



「ガイっ! なんで、こんなところにっ!?」


「ごめんっ! 急に誰かが俺をつかんで……、気づいたら俺……この中にいて……、でも……、でも……」



 ガイは急に顔をくしゃりと歪め、大粒の涙をこぼし始める。

 そんなに怖かったのだろうか……

 私は、そんなガイを見て後悔をする。



 こんなことするんじゃなかった……



「いたんだ……! ほら、スイ。これ、俺の弟……」



 ガイの言葉に一瞬何を言われたのか分からなくて、私はぽかんとしてしまう。

 隣にいる赤茶色の髪の少年を見る。

 ちゃんとご飯を食べていないのか、頬が少しこけている。

 けど、どことなく……ガイに似ている?



「オレ……、オレは……?」



 泣いているガイとは対照的に、弟だと言われた少年は何を言われているか分からない表情だ。

 それに気づいたガイが、しゃくり上げながら必死に説明をしてくれた。


「……っ。お、俺のことっ……、覚えてない……っ、んだ……っ。し、仕方ないよなっ……うっ……、もう4年も前のことだし……っ!!」



 そのガイの言葉に、もっと、もっと早く助けてあげられれば……という思いと、今回ガイをこんな目に合わせてしまって申し訳ないという思いが、心の中でせめぎあう。


 私の行動は本当に良かったことなのだろうか……。

 ガイの弟を見つけることはできた……、でも今回はあまりにも危険すぎた。

 これからだってまだ分からない。


 それより……、早く逃げなきゃ!


 今の状況を思い出し、私は慌てて刀を手に持つ。

 いつ誰かが襲ってきてもおかしくはないっ!



「ガイっ! 逃げようっ! 早くっ!」



「分かった! あ、でもっ! この子も一緒にっ! なぁ? ダメか!?」



 いつの間にか、ガイの後ろに隠れていた赤髪の女の子がちらりとこちらをのぞく。

 ジェーンに似た子だ……。



「なあっ! 頼むよ! こいつも連れてってくれよ! こいつも捕まったんだよっ! 一人でここに置いてくなんて、俺、できねぇよっ!!!」



 しがみついている少女と弟のスイを抱きしめ、泣き叫ぶガイ。

 でも、この状況で2人も子どもを……、ガイだっておそらく殴られて気絶させられたんだと思うし、きっと本調子ではない……。


 そんな時に、最悪、ネイマルの貴族に捕まってしまったら……。



「なあ、頼むよ……。俺は、俺は……何もできねえし、お前に頼むことしか出来ねぇ……、俺にできることは、頼むことしかできねぇんだよ……。お願いだよ! 頼むよっ!!」



「ガイ……、そんな事言わないで……」



 ガイの涙の溜まった目から、さらにぽたりぽたりと雫が落ちる。



 そんなこと言ったって……

 そんなこと言われたって……

 いまさら……


 私は喉の奥からから絞り出すような声でガイに言った。



「最初から、『全員』助け出すって決めてたんだから、そんなこと言わないでよ!」



 私は不敵に笑った。

 ガイが一瞬呆けた顔をする。

 こういうの、ちょっとやってみたかったんだよね。



「さあ、行こうっ! 僕がまず外に敵がいないかを見る。そしたら、すぐ路地裏にまわって、逃げるよっ!」



 ひとまず偵察に私一人が外に出て、辺りを見回し、荷馬車の前のほうへ気配を消して近づいてみた。

 すると、馬はどっかに逃げ去り、操縦していた男は頭をどこかにぶつけたのか、一人のびていた。


 よかった……。

 あとは、けっこう盛大な音を出しちゃったから、それに気づいて誰か来なければ……



「ルーンっ」



 振り返ると私を追ってきてくれたのか、アリーの姿があった。

 その額には汗が大量に流れている。



「アリーっ! ガイが見つかった!」


「えっ! どこっ!?」



 目を丸くするアリーに私は荷馬車の中に案内する。

 アリーはガイが無事なのと、他の2人を見て、にこりと微笑んだ。



「早く逃げよう! この辺りは閑散としてるけど、一つ向こうの通りは結構人がいた。すぐに誰かくるかもしれないっ!」



 アリーの言葉に一同頷くと、アリーは赤毛の女の子をひょいと抱きかかえた。

 ガイも弟のスイを抱きかかえようとして……



「うぐっ……」



「どうしたの、ガイ?」



 ガイは右腕を抑えて、その場にうずくまってしまった。

 どうやら怪我をしているらしい。血は出ていないようだから、打撲だろうか?

 よし、それなら……。



「僕がスイを運ぶから。ガイは前を行って?」


「悪りぃ……」

 


 手が塞がっている私とアリーは後ろに回り、ガイを先頭にする。

 あたりを確認しながら、薄暗い荷馬車の中から、外へ出る。


 赤毛の女の子はガイから離され、うぅぅとぐずったが、ガイが人差し指を口にあて、しーっと言うと、おとなしく黙った。


 結構、なついてるな……と思いながら、私たちはその場を後にした……が。



「おいおいおいおい。お前たち、どこへ行くんだ?」



 どこからともなく、昨日のあの太ったネイマルの貴族が出てきた。

 今日も今日とて、エンジ色の上着にぱつんぱつんの黒のズボンを履いている。

 だが、その手には鋭い大きな剣が握られていた。



「昨日からネズミがいるかと、思いきや。3匹もいやがったのか。

 ふんっ、逃げられると思ってんのか? えぇぇっ!!!!」



 そう言って、猛然とこちらに走り出してくる。


 腰にある刀を取ろうにも、スイを下ろさないと……、いや、間に合わないっ!

 それはアリーも同じで、女の子を今まさに下ろそうとしているが、この距離では間違いなく、ガイが……っ!



「ガイっ!!!」



 貴族の振り上げた剣がガイに振り下ろされる。

 じっとして、動かないガイの背中……。

 そして……っ!!!



 ガッ――……!



 しぶきが上がり、私の目にはその体がスローモーションで地面に倒れていくように見えた。

 息が止まり、開いた口が塞がらない。


 なんで……

 なんで…………

 どうしてっ………………!?



 ドスッ――……!








 



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