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私はその夜、ガイやアリー、ジルが泊っている部屋へ行き、今日あった出来事をかいつまんで話した。
ガイはその赤茶色の髪をした男の子がいるのをきいて、今にも飛び出していきそうな勢いだったけど、夜だから危ないという事で私とアリー、ジルの3人がかりで取り押さえた。
ちなみに、やはりガイは予選で敗退。
でも、なんとジルは初出場にして予選を勝ち抜き、明日の本戦に出るという。
予選には18歳までの、もうほとんど成人と変わりない人たちがいるというのに、その人たちと戦って勝ち抜いたとは……
私がびっくりしていると、
「いや、お前ら基準にしてたら、そりゃ強くなるだろ」
と、ジルにあきれ顔で言われてしまった。
納得できずに私が唸っていると、隣に座っていたアリーが心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫なの? 二人だけで? 僕たちの試合が終わったあとじゃダメ?」
「昼にはもう港に行っちゃうみたいだから、それまでにどうにか助け出したいんだよね。見つかると厄介だし、こっそり連れ出したいから」
貨物の大量にある港に行ったら最後、どこにあの子たちがいるか分からなくなってしまう。
だから、できれば港に連れていかれる前に探し出したい。
「分かった。でも、何かあったらすぐに戻ってくるんだよ」
「うん、大丈夫! そのために、今まで頑張ってきたんだから」
握り拳を胸に私は、力強く言った。
それでも、アリーは心配そうな顔のまま、こてっと首を傾げ、あきらめたように溜息をつく。
「……でも、無茶はしちゃだめだよ?」
アリーは過保護だなあと思いつつも、簡単な事じゃないっていうことぐらいは重々承知している。
試合にはたくさん勝ってきたけど、『試し合い』ではなく、本気の『戦い』というのは今回が初だ。
いや、戦わずに済む可能性だってあるんだけど、万が一、子どもたちを救出している時に見つかれば、刀を振るうしかない。
「よし、ガイっ! 気合入れて行こう! 今日はぐっすり……眠れないとは思うけど、なるべくちゃんと休んでねっ!」
「わかったっ!!」
いまだかつてないガイの力強いまなざしに、私の心は高ぶる。
絶対に助け出すっ!
たとえ、ガイの弟ではなくても、それでもっ!!
――…… あの日に、諦めないと誓ったからっ!!
〇 〇 〇
「ガイこっち!!」
「お、おうっ!」
ガイと一緒に、昨日行った村の中心地へ向かう。
戦闘になるかもしれないということで、私もガイも完全武装だ。
私は愛用の2本の刀を腰にさし、ガイも木でつくられた剣を1本手に持っている。
私の後ろをよろめきながら走るガイは、見ているほうがヒヤヒヤするけれども、なんとかついてきている。
「はぁ……」
おでこが熱をもってあつい。
私と同じ紫色の瞳を揺らし、間近にせまったあの顔が、あれからずっと頭から離れず、ため息が漏れる。
アリーの奴め……
ほてる額をこすり、私は今朝のことを思い出して、苦虫を噛み潰した。
「気を付けてね……ルーン」
大会本戦前。
アリー、ガイ、ジルと私の4人は宿屋から少し離れたところの建物の隅に集まっていた。
向こうではウォルフ先生が、ふらふらと動き回るマルタナ村の男の子たちをまとめるのに、必死に駆けずり回っている。
アリーと、ジル以外は予選に落ちてしまい、皆、暇を持て余しているのだ。
試合本番前だというのに、アリーの表情はさえない。
きいたところによると、第一王子のジュリアス殿下も本戦に残っているようである。
まあ、年齢を詐称して出場するだけ自信があるってことだから、当然と言えば当然だけど……、なんか、納得いかないっ!
私だって出場したかった!
でも、今回は仕方がない。
私にはもっと大事な、やるべきことがある。
「アリーも頑張って。絶対優勝してねっ!」
「ルーン……」
そう言って、アリーは私をギュッと抱きしめた。
背に回された腕は、昔の頃と違い、太く逞しい。
大きくなったな……、と感慨にふけっていると、急に顔の両端を手でガッとつかまれ、強制的に下に向かされる。
な、何!? と思っている間もなく、額に柔らかく暖かいものがあたった。
……へ?
驚いて顔をガバッと上げて見ると、にこりと微笑んでいるアリーがいた。
え? もしかして、き、きききキスされた?
おでこにキスはエマニエル伯父様がよくしてくれるけど、家族以外にされた記憶はあまりない。
ましてや、同年代の子どもになんて……
しかも男の子に……!!
私は、顏から火が出るほど熱くなり、その場に固まる。
それを見ていたガイとジルは「げっ……」と露骨にうめき声をあげた。
そして、何事もなかったかのように、アリーはガイのほうへ向きなおると、
「俺はいいっ! 俺はいいからああぁぁぁぁぁ!!!!」
と拒否るガイにもアリーは、抱きしめて額にキスをした。
隣でそれを見ていたジルは「おおげさなんだよなあ、アリーは」とあきれている。
ほんっと、大げさだよ。
額に触れ、朝の事を思い出すと、胸に不安が沸いた。
大丈夫。
危なくなったら、すぐに逃げればいい。
たとえ、あの子たちを助けられなくても、いつか……、いつか絶対に助けに行く。
諦めないっ!
行く前からちょっと、弱腰だけど。
自信満々よりかは、少し不安なほうがいい。
そのほうが色々と最悪のケースを考えられるから。
私は昨日の場所へ、もう少しでたどり着くというところで、後ろを振り向いた。
「ガイっ! あともう少し……だ……。
――……え?」
太陽の光があまり入ってこない路地裏。
薄暗い道を振り返ると、そこにガイの姿はなかった。
さっきまで、後ろをついてきていたはずなのに……。
一体、どこへ……!?
私は頭の中が真っ白になり、パニックになる自分をどうにか落ち着かせながら、いなくなってしまったガイを探すべく来た道を引き返す。
――……ガイッ!!




