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 あの後アリーは何事もなかったかのように試合会場へ向かい、あっという間に予選を勝ち抜いていった。

 でも、いつもより剣の鋭さがキレッキレなのは、ちょっと見なかったことにする。


 ウォルフ先生は私たちの面倒も見つつ、赤茶色の髪をした男の人や女の人たちと話していた。

 見たことがない顏の人たちばかりだから、ネイマルから来た人たちだろうか。


 マルタナ村以外の場所で、ネイマルからの人を受け入れてくれる所があるのは、きいたことがないし、王都のお父様からの報告書にもなかったから、たぶんそうだと思うけど……。


 ウォルフ先生が話に夢中になっているすきに、私は大会の会場からゴフタナ村の中心地へ向かうのであった。



 〇 〇 〇



 ゴフタナ村で行われている、紫水晶の不正売買、そしてネイマルからの難民を捕まえてアスタナの貴族に売る人身売買。

 かなりあくどい事をしているけれど、表向きには、なんとこれらは慈善事業をうたっている。


 紫水晶については、貴族の家が出した廃棄ガラスの再利用として。

 主に食器類が割れて使えなくなってしまって、また溶かして再利用をするという名目らしい。


 人身売買については、身寄りのない子どもを引き取ってもらう里親あっせん。

 その他は仕事を探している女性たちの職業あっせんといったように、クリーンな事業をうたっているのである。


 王都にいるお父様からの報告書にも、きな臭いのだが、どうも取り締まりの決め手に欠けて、手が出せないのだと書いてあった。

 特に、アスタナの貴族も絡んでいるので、色々露骨に手が出せないらしい。

 


 慈善事業として活動しているせいか、活動場所は村の中心地。

 しかも、建物の1階部分。

 隠れるのではなく、むしろオープンに不正売買と人身売買が行われている。


 知らない人から見れば、まさかそのような事が真昼間にこんな人目が付くようなところでやっているとは思わないだろう。



 私は報告書にあったその慈善活動をしている建物の場所にたどり着くと、何気ない素振りでその前を通り過ぎた。

 木造2階建て。一階部分は壁もなく、木の柱だけがあり、中が丸見えだ。

 大きい茶色い木のテーブルが3つと、背もたれのない、ただの丸椅子が数個、規則性なく置いてある。


 そのテーブルの上には、適当に置かれた大小さまざまな箱。

 その中から紫色の光がちらりと見える。

 周りには数人しかおらず、紫水晶を売るにしてはかなり手薄な人員である。


 たしかに紫水晶が売っている場所とは思えない。

 紫水晶はアスタナ王国ではよく採れるが、その他の地域で採れることはあまりない。


 アスタナ王国の特産品なのである。

 いっぱい採れるのに、輸出しちゃいけないの? って思われるかもしれないが、世界的に見たら希少なものなのである。

 だから、海外へは輸出規制がかかっている。


 前世の世界でも、日本でとれるキダチアロエはワシントン条約で他国への輸出が禁止されていた。

 化粧品などでよく見かけるキダチアロエだけど、あれは国外へは輸出禁止だったりする。

 もちろん、道路に生えているキダチアロエもダメである。


 貿易の会社で働いていた時に、海外へ日本の商品を売る人がコンテナにキダチアロエのはいったシャンプーをいれやがって、取り出すのにかなり手間がかかった。

 あれはひどかった。コンテナを港から出すのにどれだけ時間と金と労力がかかると思ってるんだ。


 あ、思考がそれてしまった。


 というわけで、紫水晶の輸出は国に許可書を申請しなければいけない。

 しかもその輸出量も特定の業者が牛耳っており、こんなところでは行われるはずがあってはならないのだ。

 つまり、違法に他国へ、国家の財産である宝石を輸出しようとしているのである。


 私は場所を少し移動して、隣接する近くの建物の中に、赤茶色の髪をした子どもや女性がいないか探す。

 でも、赤茶色の髪をした大人の男の人はいるけれども、子どもや女性はいなかった。

 普通にお酒飲んで話しているから、あの男の人たちは『売られるほう』の人ではないと思う。


 せっかくここまで来たのに、手掛かりなしか……

 と思っていたところに、かすかに、子どもの少し甲高い声が聞こえた。


 近くの建物の影に身を潜めて、声のするほうをうかがう。

 紫水晶の売られている建物から、数軒離れたところにある小さな小屋。


 その扉の中から、うんしょ、うんしょと大きい布袋を手に運ぶ、赤茶色の髪の男の子と……、もう一人その子よりも少し小さい……鮮やかな赤色の髪をした女の子が現れた。


 その女の子を見て私は思わず、



「ジェーン……?」



 と呟いていた。


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