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 季節は過ぎ。

 冬から春を迎え、青々とした草の緑が風にあおられ、初夏の訪れを感じさせる昼下がり。

 遠くのほうで子どもたちの元気のいい声がこだまする。


 サァっ――と、頬をなでる風はまだ涼しいが、日差しの下にいるとジワリと汗がにじみ出てくる。

 揺れる葉の隙間からチラチラと光がこぼれる巨木の下で、私はつかの間の休息をとっていた。


 向こうではアリーが見事な足さばきで、相手の剣から身をひるがえし、お手本のような型で相手の胴に一撃を食らわせる。


 俯いて、ふぅと息をつき、額の汗をぬぐうアリー。


 そんな様子をぼうっと眺めていると、アリーはくるりと木陰で休息をとる私のほうに顔を向け、ニコリと笑い、ひらひらと手を振った。

 ウォルフ先生と同じ黄金の髪が揺れ、キラキラと宝石のように輝く一滴の汗が地面にしたたり落ちる……



 ――……嗚呼、もったいない

 一滴残らず、全て、なめとってしまいたい……



 ……。

 …………。

 ………………。



 はっ! いけないっ!

 なんか、違う世界に行ってしまっていたわ、わたくし……っ!



 私は慌てて首を振り、邪念を振り払う。

 気づけば、アリーはもう既にほかの子と打ち合っている。



 ガイの弟の行方はいまだに分からない。

 けれど、一つ有力な情報が手に入った。



 紫水晶のネックレス。


 不正売買。



 場所はアスタナ王国ゴフタナ村。

 シェルトネーゼ領から南西へ、王都を越えさらに向こうにある港町に隣接している村だ。

 馬で駆けても5日以上かかる。


 そして、そこは12歳以上が参加資格を有する、剣術大会の開催地でもあった。

 行くとしたら、それを狙わないわけにはいかない。

 だけど、私は今年でようやく8歳。


 あと4年も待たなければいけないなんて……

 ちなみに、ガイとジル……そして、なんとアリーも今年で11歳だという。


 アリーが私よりも3歳年上ということに、かなり驚いた。

 年下だと思ったのに……っ!


 発育が悪いのだろうか……?

 大丈夫だろうか?

 イノシシとキノコをもっとアリーに与えなくても大丈夫だろうか?


 あ、ダメダメ。

 すぐに思考が脱線しちゃう……。



 ウォルフ先生に参加はしないけど一緒についていきたいってお願いしようかな。

 それでも、行けるのは来年なんだけど、まだまだ私たちには力が足りない。


 不正売買をしているヤツらはみんな大人だ。

 しかも、ふつうの大人ではない。闇取引をする屈強な戦い慣れた男たちに違いない。

 強くならなくちゃ……



 木漏れ日が揺れる地面に視線を落としたまま、私はそう固く決意すると、ふと横に気配を感じた。



 誰? と思って首をひねり、顔を上げてみると、



「隣いいか?」


「う、うん……」



 そこには、ぶっきらぼうな声に、口を一文字に結びムスっとした表情で、真横に視線をそらしたガイが立っていた。



 え……?

 はじめて声をかけられたんだけど?

 ど、どうかしましたか? ガイ先輩……



 突然の来訪に、私の頭は大パニックだ。

 慌てふためく私を知ってか知らずか、人ひとり分、離れた場所にガイが腰を下ろす。


 しばらく、気まずい沈黙が続き、先に口を開いたのは、ガイのほうからだった。


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