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無言で歩く男の子2人についていくと、木刀などが保管されている倉庫の裏にたどり着いた。
周りは背の高い木に囲まれていて薄暗く、風に揺らめく葉のこすれあう音が、地味に気味の悪い雰囲気を醸し出している。
ふと私の頭に、不良が弱そうな男子生徒を校舎裏に呼び出し、カツアゲする光景が浮かんだ。
こ、これはもしかしたら、ボコられるやつ?
ここのところ、私がガイをコテンパンに打ちのめしているので、その腹いせに私を殴る蹴るするつもりだったりして……。
いつでも剣を抜けるよう、刀の柄に手を伸ばし、神経を張り巡らせる。
しばらくすると2人は立ち止まり、背を向けたまま動かなくなったが、意を決したようにぱっと振り返った。
来るかっ……!!
「今まで悪かった!」
「ごめんなさいっ!」
「え?」
渦をまいたつむじが2つ、こちらを向いていた。
直角90度に体を曲げ、頭をさげた2人は、表情こそわからないが、手のひらを力強くぎゅっと握り、緊張をみなぎらせている。
どういうこと?
「な、なんで、謝るの?」
動揺しつつも、私は出来るだけ相手に威圧感を与えないように問いかけた。
びくりと体を震わせた背の高いほうの男の子が、頭を下げたまま、それに答える。
「お前は何も悪くないのに、悪口なんか言って悪かった。本当は、お前のせいじゃないって分かってたのに」
おそるおそるといった様子で二人が、顏を上げる。
ひどくおびえた表情だ。
おびえさせているのは私だと思うんだけど、なんか逆にショックだよっ!
私、怖い事した!?
別に何もひどいことしてないような……。
まあガイにはかなり肉体的攻撃をしちゃったとは思うけど……。
稽古以外では暴力はふるったことないし、それはもちろんガイやこの子たちだって同じで、ここで訓練する以外、私に何かしたわけではない。
いつもアリーが一緒にいてくれたし、精神的に辛いこともなかった。
いつかガイを見返してやるって思って、励みになったし。
だからこそ、こんな短期間で強くなれたんだと思う。
それにこの子たちにとって、私という存在はネイマルの貴族を彷彿させていたのだ。
自分の生まれ故郷を離れるのは、耐え難い苦痛だったに違いない。
その元凶である人間たちと似ている私に、憎悪を向けるのは、無理もないと思う。
「いいよ。ウォルフ先生から色々きいてる。ガイと仲良くできないのは、ツラいけど、こうやって話してくれるのは嬉しい」
唯一、ガイとこの2人とだけは、なかなか打ち解けずにいたから、この2人だけでも距離が縮まったのは素直に嬉しい。
よかったよかった、とほっと胸を撫でおろしていると、小さい男の子のほうがそわそわし始めた。
なんか様子がおかしい……。
そういえば、最初からあまり喋っていなかったけど、もしかしてこの子は私のことをまだ憎いと思っているのだろうか。
大きい子のほうから言われて、嫌々謝っていたらどうしよう。
でも、別に私を睨んでいるわけではないし、むしろ泣きそうな目でこっちを見ているんだけど……。
懇願するような、縋り付くようなまなざし。お願いお願いオーラが出ている。
これって、なんか面倒くさそうな事になりそうな予感……
「ガイを助けて!」
「おい、テオっ! ちょっと待て! ちゃんと順を追って説明しないとだな……」
「お願いっ! 早く見つけてよぉ! ガイがかわいそうだよぉ!」
見つける? 助ける? ガイを?
え? ガイ、あの後どっかいっちゃったの?
テオと呼ばれた男の子の悲痛な叫び声に、私がおろおろしていると、ずっと黙っていたアリーが口を開いた。
「ガイにはね、弟がいるんだけど、ここに来る途中で攫われちゃったんだよ」
いつも明るく元気なアリーの、初めて見せる影の落ちた暗い表情に、私は目をみはった。




