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 それから、本格的に私の武術と剣術の特訓が始まった。

 ネイマルから来た難民の人々とは少しずつ打ち解けていき、うちの領の畑を荒らすイノシシを狩っては、みんなにイノシシ汁をふるまっていた。


 これを食べさせて皆を太らせれば、相対的に私が少し細く見えるはず。

 そう思って、無理やりにでも食べさせてるんだけど、なかなか皆太ってくれない。

 太らない体質かな? 何それヒドイ……。うらやましい……。


 毎日、イノシシ狩りとウォルフ先生からの特訓。

 難民の子どもたちに交じって、剣をふるう。

 みんな、ひょろひょろしてるのに、重たい木刀を軽々とブンブン振り回している。

 え? 遺伝なの? 何それ……、どういうこと?


 住む家を追われ、悲惨な状況にはあるものの、みんな少しずつ立ち上がろうとしている。

 ネイマルの人たちの事はなんとかしたい。

 町から古着を集めたり、森や山で食べ物を採ってくるだけではなくて、もっと根本的なものに着手したいって思った。


 でも、今の私ではそれは不可能だ。

 7歳の子どもは、所詮7歳の子ども。

 中身がどうであれ、立場的に弱く、何の権限もない。


 エマニエル伯父様にそれとなくネイマルの難民のことをきいてみたら、戸籍ができた順に住居を用意し、町へ働きに行ってもらっているということだった。

 戸籍を作る書類も膨大で、難民ではない者も紛れ込んでいるらしく、かなり面倒のかかる作業らしい。


 それに、大々的に支援してしまうと、ネイマル王国とアスタナ王国という国と国の関係に悪い影響が出るということで、ひっそりとしか支援しか出来ないという。


 エマニエル伯父様もウォルフ先生と同じく、まずは何も知らずに、とりあえず状況を知ってほしかったということで、難民の件は私には黙っていたようだ。



 助けたい……。

 でも、今の私にはなんの力もない。


 自分の死亡フラグ回避のためにこの領地に来たけど、目の前に苦しんでいる人がいるのに、何も出来ないなんて。


 いや、きっと私にだって何かできるはずっ!



「脇が甘いぞっ、ルーンっ! ちゃんと締めろっ!! 受けるのとかわすばっかりじゃ、勝てねえぞっ!」



 ウォルフ先生の(げき)が飛ぶ。

 私は今、男の子たちに交じって、剣の稽古をしている。

 女の子もいることにはいるのだが、数は少ない。

 ほとんどの女の子は町へ行き、針仕事などをしている。


 ここにいるより、町にいたほうが安全とのことらしい。

 今ここには、新たな難民の受け入れを手伝ってくれてる数名の大人と、その子供たち、それとウォルフ先生とアリーが常駐している。


 最初あったようなテントはなくなり、ベッドが完備された仮設住宅が少しずつ出来上がってきていた。

 聞けばウォルフ先生やアリーもネイマル出身で、故国の人たちが身を寄せる場所を探していたところ、ここに行きつき、エマニエル伯父様と出会ったという。





「うおぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」


「うぐっ!」



 カンカンカンカンっ!


 連続した木と木が重なり合う音が、けたたましく響く。

 間髪入れず眼前に繰り出される木刀に私は反撃することもできず、じりじりと後退していった。



「どうしたっ! どうしたっ! なんも出来ねぇのかよっぉぉぉぉっ!

 このデブがぁぁぁぁっ!!!」


「くっ……、く、くそっ!!!」



 右左上下、あらゆる角度からひっきりなしに、規則性もなく木刀が繰り出される。

 型も何もあったもんじゃないっ!

 そんな出鱈目な太刀筋に、私は避けるのと受けるので精いっぱいだった。


 くっ……、絶対にただボコボコに殴りたいって感じだろ、これっ!!

 


「ガイっ、イッケーーーー、やっちまえぇぇぇーーーーっ!」


「そうだっ、そうだっ! ぶったおせせせせえええええぇぇ!」



 周りにいる男の子数名がはやし立てる。

 侮蔑を含んだその声に、ちょっとイラっとする。



「余所見してんじゃねぇっ! うおるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 ちらと横を見た私に目ざとく気づいた対戦相手の少年は、とどめとばかりに剣を大きく振りかぶった。

 シュッっと下から上に空が切られる。

 赤茶色の髪が風になびき、前髪の隙間から憎悪の色を含んだ瞳が私をとらえる。



「これで、終わりだっ!!!」



 ゴッっ!!



 鈍い音が――……身体を震わせた。



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