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サクサクっと読めるように書いております。
ポテチ片手に気楽な気持ちで読んでいただけると嬉しいです。
「お前みたいなデブと俺は結婚しなきゃならないなんて、最悪だぁぁぁぁぁ!!!
それなら、死んだほうがマシだっ!!!!!」
騒がしいパーティー会場であびせられた耳を疑うような言葉。
えっ? これって私に言っているんだよね?
目の前にいるのは、この国の第一王子であるジュリアス殿下。
7歳だというのに高貴な空気を漂わせ、今は怒りでピリピリと張りつめた空気をまとっている。
逆立った漆黒の髪に、金色の目は私を憎々しげに睨んでいる。
まるで、獰猛なクロヒョウみたい。
「お前の評判は知っている!! かわいい妹や弟を毎日いじめて、菓子ばっかり食っているってな!!
この最低の女がっ! ジダラク女がっ! お前みたいな女、俺は絶対に認めないっ!!!」
ひぇぇぇぇーーーっ!
ジュリアス殿下ってこんな怖い感じだったの?
小説の中ではあまり語られていない幼少期だけれども、知らなかった。
にしても、しょっぱなから好感度めっちゃ低いんですけどっ!?
いきなり断罪エンドですかっ!?
〇 〇 〇
時は一週間前にさかのぼり。
「エルーナお嬢様、今すぐ替えのクッキーをご用意いたしますので、しばしお待ちくださいませ」
そう言ってメイドのジェーンは、私の手に握られている『白い粘液』のかかった食べかけのクッキーと山盛りのクッキーがはいったガラス皿を持っていってしまった。
いつもの私だったら、
「汚れたのはその食べかけのクッキーだけなのだから、無事なものは置いていきなさい!
あなたが戻ってくるまでにわたくしは何を食べていればいいのよ!」
などと騒いでいたかもしれない。
でも、今の私はそれどころじゃないのだ。
私はこれによく似た光景を知っている。
空から降ってきた鳥の糞に気をとられ、車に跳ねられてしまった、以前の"最期"の記憶。
「もしかして、生まれ変わったってこと? しかも、全然違う世界に……」
生まれ変わりなんて信じてなかった。
しかも、この世界は私が前世で読んだ本にそっくりな気がする。
タイトルは忘れてしまったけれど、たしか内容は意地悪な姉に虐げられた妹が、あらゆる困難を潜り抜け、王子や騎士、時には自分の命を狙う暗殺者とともに、王国の謎を解決していくものだった気がする。
その謎がなんだったかは、忘れてしまったけど……。
魔法や不思議な力のない世界だったけど、ハラハラさせられる展開がなかなか面白い物語だった。
あれ続編とか出なかったんだよね。
最終的にヒロインである妹は第一王子と結婚してハッピーエンドで締め括られていたような。
途中までは逆ハーレム状態で、私としてはミステリアスなアサシンとくっついてほしかったなーって思ったんだけど。
で、できれば王子は騎士とくっついてほしかったな……なんて。
じゃ、じゃなくて!
今は、そんなことを考えている場合じゃないっ!
もし、ここが本当にあの小説の世界だったとしたら……?
私は自分の体を見るため、ゆっくりと顎をひいた。
うっ……、苦しい。
顎と体の間には分厚い皮の塊、まるで私が下を向くのを阻んでいるかのよう。
視線だけを下に向け、辛うじて見えた自分の体は、デップリと出ている胸……、ではなく、お腹まわりの脂肪。
太っている……。
間違いない……。
ヒロインには姉がいる。
デブで傲慢で、わがままで。
妹をネチネチいじめる悪役。
その名も、エルーナ・ヴェル・シェルトネーゼ。
緑豊かな土地に恵まれたメースル大陸の南に位置するアスタナ王国。
その中でも名門貴族で知られるシェルトネーゼ公爵家の長女。
そして、傲慢な姉には二歳年下の妹がいる。
陶器のごとく滑らかな白い肌に、ゆるくカールされた煌めく白金の髪。
瞳はまるで今私が見上げている、すみきった紺碧の空のよう。
その姿はまるで、雲間から大地に降り注ぐ光のヴェールをまとった、穢れなき天使。
彼女こそがヒロインの中のヒロイン。
それが我が妹、5歳にしてアスタナ王国一の美少女と言われるユリア・ロメリヌ・シェルトネーゼである。
どうやら、私は悪役令嬢に生まれ変わってしまったようだ。




