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一通り掲示板に貼られている依頼を見終わった青年は、少し考え込みます。『出来れば自分が行きたいと思っている町に行く商隊に参加したい』と考えていたからです。しかし、ここに張り出されているのは希望する街と反対側か、近辺の豪族の屋敷の見張り等しかありません。フゥ……と溜息をつき青年は、掲示板横の窓口に座っている男に話しかけます。
声をかけられた男は、青年を見つめます。青年の姿は、どこにでも居る旅人の様子。卵形の輪郭に筋の通った鼻、少し大きめの瞳は藍色の瞳をしています。肌は、ほどほどに日に焼け、まっすぐな漆黒の髪は肩にかかるほどの長さをしています。しかし、整った顔でありながら地味で、額の鉢金ばかりが印象に残るほどでした。
「あなたがここの『聞き耳』ですか?」
「ああ」
「この街から、北へ行く商隊の護衛の仕事はないのでしょうか?」
「あるさ。だが、そっちはワシの質問に答えられた者にだけ渡すルールだ。受ける気はあるかな?」
「ええ、もちろん。」
「良かろう。ワシの質問に全て答えてもらうぞ。」
男はそう言うと、にやりと笑みを浮かべ矢継ぎ早に質問を青年へと投げつけていきます。彼もそれに対して簡潔に即座に返答をします。
「……ふむ、では、最後の質問としようか。」
一呼吸置き、男は青年の瞳を見つめる。
「『魔法を使う者』か?」
青年は笑みを浮かべ肯定しました。
「ええ、精霊使いです」
聞き耳は視線を逸らすことなく青年を見つめ、一枚の紙を机に広げます。
「合格だ。丁度一件だけ、『魔法を使える者』に限定された依頼がある。条件はここに書いている通り、問題なければ依頼人を呼ぶ。雇うかどうかは、依頼人次第だがな。どうする?」
渡された紙には、賃金と内容が書かれていました。『荷馬車の護衛と、ある人物の護衛の兼任。但しある人物を護衛している事に関しては、当人以外秘密厳守。深夜の守護結界の作成』。青年にしてみればありふれた依頼内容です。ただ、但し書きに『秘密厳守』の文字が書き込まれていたことを除けば……ですが。その分というのか、報酬は今まで受けた護衛依頼の中でもかなり良いものでした。
「この隊は……何を扱っているのですか?」
「そいつはここで言うもんじゃないな。まぁ、そこに書いている以上のことはワシも知らないがな。さて、受けるかね?」
言われて、流し読みしていた部分をじっくりと読みます。『扱う荷は呪具。複数の魔法を使える人が望ましい』。確かに扱う荷のことは書いていました。青年は、斜め読みをするのは良くないなと、溜息混じりに反省しながら……。