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『仲介屋』とは、その名の通り物事の仲介をするお店です。でも、物を仲介するお店は『問屋』と呼ばれています。青年が向かったのは、『情報』や『人間』を仲介するお店。お仕事を捜している人や、見つけられないモノやなくしたモノを捜している人達が集まる場所です。
『仲介屋』に行くために、街の中を移動している途中で道端に布の塊があるのが、目に入いりました。それも丁度自分より一回り小さい人のサイズです。奇妙に思いながら近づいたところ、それがぶかぶかのマントを着た人だったので驚きました。さて、彼は迷います。その布の塊のように見えた人はずいぶん具合が悪そうに見えます。ですが、もしかすると『そう見せている』のかもしれません。迷いながらも、その人の前を通り過ぎようとしたとき、耳の奥で潮騒の音が聞こえました。魔法を使える者同士、そして、同じ属性の精霊と契約している者の間でしか起きない『共鳴』という現象です。今、音を感じた方向、そして自分の側に自分と同じように精霊と契約した人が居るのです。
『兄様、あちらに私の同族の気配がいたします』
共鳴と同じくして水の精霊リームニが彼の耳の奥で囁き、ついそちらを振り向いてしまいました。それが、さっきの布の塊のような人がいる場所だったとしても。
自分が振り返ると同時にその人との目が合いました。さっきまで俯いていたため見えなかったフードの中には赤い瞳とプラチナブロンドの巻き毛の少年の顔がありました。やはりあまり顔色はよくない様です。お互いに耳の奥に聞こえた音に反応したとしか思えないそのタイミングでは、無視して通り過ぎるのも気が引けてしまい、青年は彼の前に移動します。
「こんにちは」
「こんにちは」
「具合、悪いみたいだけど……大丈夫?」
「うん、大丈夫。人間、多い、少し酔った。心配、ありがとう。」
「……そっか。」
単語を一つ一つ紡ぐしゃべり方に戸惑いましたが、目の前の少年はどう見ても魔法使いのようには見えません。剣士のような出で立ちの自分のことを棚に上げ、そんなことを考えていますと、店の扉が開き中から体格の良い女性がでてきました。首から下を肌が見えない様にきっちりと着込み更にマントを羽織っています。マントの下には丈夫そうな皮鎧が見え隠れしています。手袋をはめ、長袖の上には金属の手甲。暑くないのでしょうか? 尤も、彼が声をかけた少年も同じように服を着込んでいるのですが……。
彼女は座っていた少年に声をかけます。
「オルフェ。」
「姉。用事、終わり?」
「ああ、そろそろ商隊に戻るぞ。」
「うん。お兄ちゃん、バイバイ」
姉と呼んだ女性に抱き上げられた少年は、青年に手を振ってお別れをします。その事に意を介すこともなく、女性はすごい早さで走り去っていきます。あまりの足の速さに、青年は少しばかり呆然としていましたが、風の精霊フォアに声をかけられ慌てて仲介屋へと走っていくのでした。