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小鳥の囀る声と一緒にぺちゃくちゃと話す声が、顔を洗っている青年の後ろから聞こえています。どうやらおしゃべりの内容はこれから食べに行く朝ご飯のメニューの事のようです。
『やっぱり玉子は、はずせないと思いますの』水の精霊のリームニが言いますと、
『もちろん下にはベーコンだよね』風の精霊のリーヴァスが答え、
『エー、僕はハムの方がいいなぁ』火の精霊のフローガが異議を言えば
『茹でた玉子の良いですのよ?』地の精霊のフローフォスが、違う提案を上げてきます。
彼らの会話は、次第に玉子談義に移りつつあります。そんな会話を無視しながら青年は、顔をタオルで拭き荷を整え始めます。
『ゆで卵ですか?それはやはり、かたーく茹でた物が私は美味しいと思いますの』
『エー、温泉で出来た半茹でも、うまいぞ?』
『僕も、よく茹でたのが……あ、もう出発するの?』
玉子談義をしていた一人の声が青年に向けられます。青年は、「ああ」と短く返事をします。整理が済んだようで荷袋の口を締めていました。
「で、話の決着はついたのかな?」
音もなく自分の周りに集まってきた半透明の四人の子供達をからかうように話しかけます。『きまらないよねー』とお互いに顔を見合わせて、『ねー』と全員が同意しています、
『じゃ、しゅっぱ~つ』
そう言うと、子供達の姿は一瞬にして青年の額に吸い込まれました。いえ、正確には『額にある白い石を囲んだ四色の石の中に吸い込まれた』ですね。青年はその上から鉢がねを付けて、五個全ての石を隠してしまいます。
玉子談義を展開していたこの四人の子供は精霊なのです。彼らが吸い込まれた石を額に持つこの青年は『精霊使い』と呼ばれる人です。青年は、荷物を持ち部屋を出ていきました。
宿で朝食を取り、少し早いかと思いながら青年は泊まっていた宿を後にします。
さて、町に繰り出しものの門が開くまでにはまだまだ時間があります。その時間を利用して買い物をしておこうと店のあるところへと足を向けます。靴紐、傷薬、ランプの油、繕い物用の糸など……少しでも安いところを見つけようとあちらこちらの店を見て回ります。本当は、もう少し良いモノが欲しいところですが……軽い財布がそれを許してくれないようです。
「あぁ……そろそろ稼がないとダメだな……」
オイルを買ったところで、財布の中の硬貨は銀貨が一枚だけ。贅沢さえしなければ半月は過ごせる金額ですが……何が起きるか分からない旅路では、心許ない金額です。店の人に『仲介屋』の場所を聞き、そちらに足を向けました。