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眠れる地下の猫  作者: 大川 伯
8/13

subchapter0.5 落転家

subchapterでは、他の登場人物の視点などから物語を進めます。

この章も本編につながっているので、

ぜひ読んで、「眠れる地下の猫」のお話を深めてみてください。

楽しい人生を送っていた。

毎日外を出歩き、みんなで騒がしく夜を明かしていた。


「行ってきます。」

それは、小学5年の夏のことだった。


この日、やけに運が良かった。いつものようにテストで36点ぐらいかと思ったけれど、

88点となかなかいい点数だった。自己最高点でもあったかな。

「お母さん!!テストが88点だったよ!!信じられないよ!」

「すごいじゃない!!今日は焼き肉かしら?」

といつもなら無視されるような母から褒められた。

やっと自分を認められたと思えた。

他にも、通りすがりのおばあちゃんを助け、清々しい気持ちになり、

それを見ていた友達からくじで当たったとかでお菓子を大量にもらった。


ところで、世の中には『人間万事塞翁が馬』という言葉がある。

そのとおり、不幸は幸福に転じ、その逆もまた然り。

幸福は不幸に転じる。


その日の夕方、母が急いで私に伝えてきた。

「いま!お父さんが!!」

「…倒れたって…。」

私のお父さんは、いままで母が私にひどくしてきた分、とてつもなく優しい父だった。

心の支えとなるような人だった。

「おと…さん…が…?」

声が思うように出なかった。


すぐに家を出た。お父さんは治療室に入っていた。

私と母はお父さんが目覚めることを祈った。


しかしその祈りは、すぐに破られることになる。


お父さんの葬式はすぐに行われた。母は特にお父さんが好きで、

限りないほど落ち込んでいた。

「大丈夫だよ!私達で楽しく過ごそ!」

元気付けるために言ったつもりが、

ひどく楽天的に聞こえてしまったんだと思う。

その日、怒鳴られ、叩かれ、

「出て行け!お前みたいなのはもういらない!」とまで言われた。

その日から、母親からの仕打ちがひどくなった。

毎日暴力、暴言が当たりまえになった。

いつか耐えきれなくて、早朝に家を出た。

言葉が刃物の投げ合いに見えてきたのはこの頃からだった。

毎日友達の家を渡り歩き、追い出され、すべての友達を失った。

その次におばあちゃんの家を訪ねて、数日は楽しく生活できた。

その数日はお父さんと一緒だった頃と同じくらい楽しかった。

おばあちゃんは私を迎え入れてくれ、母の仕打ちを忘れさせてくれた。

しかしある日、

「あんたを預かれなくなった。ごめんな…でもあんたの母親がそう言って聞かないんだ。

金はやるから出ていってくれ。」

と泣いて言われた。

今まで優しかったおばあちゃんから突然そんなことを言われた

ショックで家を出てしまった。


いつの間にか学校は退学したことになっていた。

その後、行くあてがなくさまよっていた。

自分の口座には毎月必要最小限ぐらいのお金が振り込まれた。


さまよい続けて半年が経っていた。


「君…なにしてるんだ?」

40代くらいの男の人に声をかけられた。

いつものように公園で野宿した朝だった。

「毎日…野宿して過ごしているんです。」

「そんな子がいるとは…」

「ちょっと付いて来なさい。」

言われるままにおじさんのもとについていった。

ついていった先はおじさんの住んでるアパートだった。

おじさんは医者をしている人だった。

おじさんはとても優しかった。自分の受け渡し先などを真剣に考えてくれ、

中学、高校と親代わりになって通わせてくれた。

そのへんのことはコネがあるらしく、親がいなくてもなんとかしてくれた。

さらに食事も毎日バランスの考えられた手料理を出してくれた。

このおじさんには捨てられぬようにと、どんどん自分の言葉を選ぶようになり、

どんどん話すペースが遅くなっていった。

おじさんはある日、べつの男の人を連れてきた。

おじさんより若く、30代前半くらいの人だった。

この人はお父さんの元部下だったそうで、私の顔を知っていた。

住む場所として、自分が配属されていたビルを紹介してくれた。

お父さんは社長で、そのビルはお父さんの所有だろうとのことだ。

おじさんはそこへ行くのを拒んでくれた。

しかし、その3年後、高校一年生として、もうすぐ終業式を迎える頃。

おじさんが母に見つかり、しつこい嫌がらせを受けた。

私から、

「わたし…ずっといきたかった高校が…あるの。」

そこは、ずっと前に紹介されたビルの近くの高校だ。

本当ならずっとおじさんのもとにいたかったけど、

もう自分の母親によって傷が増えていくおじさんを見たくなかった。

編入手続きが済んだと言われた次の日、

「もう…でます。」といった。

おじさんからは、

「まだ早くないか!?まだ住む場所まで見つかっていないのに!」

といわれたが、

おじさんに

「いままで…ありがとう…ございました。」

といい、お辞儀をした。

おじさんは、

「たまには…顔ぐらい見せてくれよ…」

と言ってくれた。

泣きそうになりながら、笑顔で出発した。

お父さんの元部下だった人の紹介を信じ、

新幹線を乗り継いでビルへ向かった。

向かう間はとても心細かった。

ビルは手入れなどされてなく、壁に蔦が生え、床から少し雑草が顔を出していた。

幸い、お金はあったので布団は買うことができた。

それでも寂しさだけは消えなかった。

なんとか紛らわすために美味しいものでも買おうとスーパーに行った。

だけど、何も食べる気にはなれず、何も買わずに出てきてしまった。

とてつもない寂しさが私を覆った。




その後、私、北川 彩霞はとある男子高校生、西谷 翔と出会う。


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