コポポル王の娘
「お前には恥も尊厳も無いのか!」
叫んでカイユー達の一歩前に出たのは、前コポポル王であった。
「貧乏者が、物乞いに来たのか?」
「民をも置いて逃げ出した一族の末裔が何を言う!」
そのからかいは王のアーマッドでもアドブラでもなく、マホーレン兄弟のどれかであり、彼らは似たり寄ったりの外見で、同じように下卑た感性しか持ち合わせていない屑ばかりだった。
「やかましいじゃ。わしは自分の娘を叱りに来ただけじゃ。じゃが、こんな屑どもと暮らしていれば、人の心など簡単に失うものじゃな。情けない。」
「お父様が悪いのよ!」
叫び返したのはアーマッド王ぐらいの、おそらく四十代ぐらいの金糸銀糸の刺繍のあるベールやドレスを身に着け、肩が凝るのではないかと人が心配するぐらいのビジューを飾り立てた女であった。
「何が悪い!同じコポポルの民を守るどころか、お前が率先してその哀れな子を痛めつけたと聞いたぞ。その生活が辛いなら何度も帰って来いと言うたはずじゃ。寵愛の無いお前など、簡単に里帰りできただろうに。そこに留まったのはお前がその似合わない宝石やドレスを手放したくなかっただけじゃろう!」
「うわあぁ。酷い!ああああ。みんなして私を馬鹿にする!あぁ、ああ!私の不幸は、お父様が私をダグドの生贄に送らなかったからよ!」
え?
俺は当たり前にどういう意味だと首を傾げたが、俺を十数分前に勝手に評論していたカイユーとフェールも、どういうことだとお互いに顔を見合わせていた。
「仕方が無いじゃろ。娘を生贄にする親がどこにいる!」
「ぜんぜん生贄じゃ無いじゃない。生贄の娘たちは全員あんなにきれいに着飾って、全員が全員自由気ままに遊んでいるのよ。どうして私をダグド様に送ってくれなかったのよ!」
「その頃の俺は生贄を普通に喰らっていたからだよ。」
「ひぃ!」
俺の声と内容に脅えるぐらいでは、今の俺でも彼女を受け入れることは無かっただろう。
俺のエレノーラも乙女達も、最初は俺に喰われると思って脅えていたが、喰われるぐらいなら戦うぐらいの気概のあった乙女達である。
ただし、喰われないと分かった後、どこに行けばいいのかと空腹と心細さで泣き出して、最初の戦士のエレノーラに住居と食べ物を与えたように、彼女達をエレノーラの所に連れて行くを繰り返すしかなかったが。
「この黒竜め!お前が我が国へ全ての災厄を運んできたんだ。女達はお前の国のシルクを欲しがって、どれだけ散財させられたか!布一枚に同じ重さの金と交換だと、この強欲竜!」
「はっはっは。布一枚かもしれないが、この俺の苦労が入っているからそんなものでしょう。それからね、この国に災厄を運んできたのはあんたの馬鹿弟。そして、俺にこの国の滅びの歌を歌わせる道を選んだのは、アーマッド・マホーレン、お前こそだ。」
そこでアーマッドは神経質な笑い声を立てた。
「ハハハハハ。ここはお前でも手を出せない絶対的結界のなかだ。」
「そうだな。俺はここから魔法を使えないが、その中にいる人間の魔法は使い放題だ。そうですね、アスランさん。」
「この爺こそ使えるわけ無いだろう。こいつは召喚術師でしかない!」
「おここー。そうなんじゃ。すまんのう。ダグド殿。」
「大丈夫ですよ。俺がこの中の全員を切り刻みますから。」
「フェール。そん中に俺を入れちゃってない?」
「いや、だって、お前の跳弾で俺が怪我しそうじゃない。」
「否定してよ。もう、最初から俺を殺す気かよ。俺がお前を先に殺る。」
「近距離戦は俺の方が早いね。事実、スクロペトゥムの初動よりもパラディンの初動の方が早いって報告もある。」
「だっさ。それって教会の、ねぇみんな!パラディンを目指そう!のパンフの文句じゃ無いの。そんなのちゃーんと読んでいたんだ。さすが、真面目君。」
「あぁもう、うるさいな!」
二人は言いあいながらデレクを引きずりながらマホーレン達の近くまで歩いていき、仲違いを鼻で笑って見ている間抜け達にデレクを投げた。




