砂漠の王のもとに集え
「デレクの必死の懇願に、返しがそれとはひどすぎる!」
「こんな所で噴出させないでください!」
飛行艇から、アルバートルとイヴォアールの笑い声が響いたがどうでも良い。
もっと早くデレクが本当の事情を離していれば、こんなにもグダグダな戦闘状況になってはいなかったのだと俺は怒っているのだ。
もう、怒りのあまり、いつもの俺の突風魔法はかなり凶悪なものになっていたかもしれない。
俺の呪文に呼応するように風の王シルフィードが召喚されてしまったのである。
砂嵐を纏った、大魔神のようなごつい顔をした男の神様だ。
「え?」
驚く俺が命令を下す前に、シルフィードはデレクの周りの衛兵たちを蹴散らし、デレクに王宮への道を作り出した。
「行け!コポポルの民よ。コポポルの娘を奪還するのだ。」
え?誰?
人の壁のなくなったデレクに駆け寄る青年達の姿があるのは当たり前だが、それから、頭に防空頭巾のような布を被った貧乏くさいローブを纏った老人までもよたよたとデレクに近づいていった。
老人はひょいと飛行艇を見上げると、老人のくせに真っ白な健康そうな歯を見せてにやっと微笑んでみせた。
「アスラン・アール・アリ様でしたか。コポポル国の王がどうして。」
コポポル国はザワークローゼン王国のある同じ砂漠の中に存在する砂漠の国だが、プラタナス鉱石の埋蔵は無く、産業どころか自給自足も難しい貧しい国のひとつでもある。
彼らは女達の作った絨毯を男達が行商に行くという形で糧を得ているが、行商ということで通商云たらから旅路の加護を得る為だけに高い加盟料を払っている。
そんな身の上に俺が勝手に同情し、まぁ、俺が通商云たらが大嫌いなだけだが、エレノーラに頼んで王を領地に招いて友好国となったばかりだ。
ちなみに、コポポル国はアスランとアールとアリが人気ネームだそうで、混乱を避けるために自分・父親・祖父と名前を並べて名乗る。
だが、どいつもこいつも並びが違うだけのスリーAでしかなく俺は混乱させられている。
さらに今、俺を混乱させたコポポル王様は、カカっと爺様風に笑い声をあげた。
「カカカ、おーここ。もう王じゃあ、ありんせん。息子のアール・アスラン・アールに譲位しましたぎゃ。カカカ。わしはもう、単なる爺のアスランですじゃ。」
俺はすっごく嫌な想像をしてしまったが、俺が招いた事態なのだと受け入れることにした。
俺に招かれた彼は、あんなにも電気のある生活に憧れ、一生の最後にこんな暮らしがしたいと俺に言ったではないかと。
「すいませんじゃ。コポポルの問題をダグド様に押し付けてしもおて。おーここ。コポポルの民はもともとザワークローゼン王国のあった場所に住んでおっての、不甲斐無い王様のわしら一族が追い払われてしもおたばっかりに、残された民が奴隷同然の暮らしじゃ。彼らを呼び寄せても貧乏国暮らしで申し訳ないぎゃ、奴隷でいるよりはいいじゃろ。連れ帰りにきたんだわ。カカカ。」
俺はすいませんでしたと、素晴らしき王様でしかなかったスリーAに心から心の中だけで頭を下げた。
「カイユー、フェール、アスラン様は俺の友人だ。死んでも守れよ。」
「カカカカカ。死なれたら困りますじゃ。わしは行く場所がなくなったぎゃに、このお若いのにダグド様ん所に連れ帰って貰わなきゃだじゃ。」
「え、あなたが連れ戻したコポポル民は?」
「おここ。だーっげに、息子が頑張るだぎゃ、平気。」
俺は難民がダグド領に押し寄せるよりはと可哀想な新コポポル王に太陽電池を贈ろうと心に決め、俺よりも老獪だった糞ジジイを受け入れる覚悟を決めた。
「さあ、道理も何もない、腐った盗賊国家をぶち壊すぞ!」
俺の鬱憤を全部受けてもらおうか、ザワークローゼン。




