妻を取り返せ
デレクは銃の腕など磨いた事など無い。
彼は奪われた妻の顔を一目見るためだけに銃騎士を選択し、銃騎士にしかないサーチアイスキルを磨いていただけなのだ。
貧しかった彼は、家族のためにと剣の腕を磨き、若くして剣の腕でザワークローゼン王国の衛士の職を得た。
結婚もその時だ。
母と姉の死によって背負った借金もこれで返せるかもしれないと、姉を看取ってくれた姉の親友と結婚したのだ。
そして、妻のため、借金の返済のためにと精進を重ね、彼は大陸通商協定連盟の騎士に推薦されるほどの兵士に育ったのである。
だが、デレクが大陸通商協定連盟の騎士となって故郷に戻った時、彼の美しすぎる妻が王に奪われて妊娠もしていたという事実だけを彼に与えた。
「畜生!僕はあの時にあいつを連れて逃げれば良かったんだ!」
彼は既に数えるのも止めた相手を大きく斬り捨てた。
そして、デレクを囲んでいた衛士達は、デレクの剣の壮絶さに近づくことも出来ないと、脅えた一人がまた一人と、彼の鬼気から後退っていった。
「突っ込むな!動けないように取り囲め!こいつは勝手に死ぬぞ!」
突破するには厚すぎる人の壁の中で足掻いていたデレクは、敵の叫び声によって彼の剣の届く範囲だけぽっかりと穴が開いたようになった空間に取り残されたようになった。
敵が指摘した通り、今のデレクは矢や銃弾で左肩や右ふくらはぎから血を吹き出しているという有様で、ほんの少しだけ命を長らえているような状況である。
彼は大きく息を吸うと、俺に向かって声を張り上げた。
「ダグド様!僕の命をあなたに捧げます!我が子を殺したアーマッド・マホーレンに裁きを!そして、僕の妻、デズデモーナ。子殺しの汚名を被せられた哀れな女にお慈悲を!」
「さっさとそれこそ言えよ!この後手後手野郎!」
俺は本気でデレクに怒鳴り返していた。




