カピバラだって温泉に入る②
無性体の彼が可哀想だと彼を見つめ返せば、彼はのびのびと湯船の中で手足を伸ばしていた。
俺はそんな彼の表情にほっとしていると、彼は、天国だ、と呟いた。
「ただの風呂だぞ。」
「いいえ、こここそ天国です。神様の家だというくせに教会はご飯も不味いし、折檻されるし、体を休めようにも固い固いベッドで眠る事なんか出来なかった。でも、人里でもエルフの村でも僕は追い払われるだけだったから、そこにしか居場所は無くて。でも、辛いばっかりで。でも、それでも頑張っていたのに、人間じゃないって追い出されちゃった。ようやく僕を受け入れてもらえたのだもの。天国です。」
「あの冒険者達はお前の仲間になってくれたんだろ。」
シロロは湯船の中で座り直すと、軽く首を振った。
「仲間じゃ無いです。頭が悪そうな人達だったから、いいカモかなって。」
「いいカモ?」
「はい。実は僕は絶対的防御魔法を使えます。ですから、ええと。」
そこでシロロはいつもの図々しさを失って頭をがくりと下げた。
「どうしたの?」
「……。」
「シロロ、続きは?」
「……。だってダグド様に嫌われちゃう。」
こいつはなんと小賢しい物言いをするのかと思いながら、彼が望む答えを口にした。
何しろ俺は続きが聞きたい。
「嫌わないから。」
「あの、ダグド様を滅ぼして、僕を不幸にしかしない世界も滅ぼしてしまおうかなって、あの、その、計画して。」
「あぁ、俺も思い出したわ。」
思い出して納得した。
黒龍ダグドが滅ぼされる時の甚大なエネルギーを狙っていたキャラがいたのだ。
つまり、世界の破滅と一緒に蘇った最終ボスの魔王レクトルだ。
奴は自分の復活のためにダグド討伐を望み、勇者のパーティに潜り込んで、そして勇者共々世界を破滅に導くというイベントフラグそのものとなるのである。
「あの、ダグド、さま?」
「何だい?レクトル?」
シロロはひゃあと悲鳴を上げて湯船に沈んだ。
あぁ、しまった。
真実の名はそれだけで拘束魔法となる。