ザワークローゼン王国
空の旅はあっという間に終わると言う所が難点だ。
星の海に飛び込んだと思ったら、視界には真っ黒な森が広がり、だがそれもあっというまに後ろへと飛び退り、今はもう砂漠の中に浮かぶ白い王宮を目の前にしているのだ。
ボーリングのピンに丸い帽子を被せたような形の塔が並ぶ王宮は真っ白な大理石造りという豪勢なものだが、この国はまるでバームクーヘンのように王宮の周りから国境に掛けて富が失われていく様が一目でわかる姿であった。
国境付近などはボロボロのテントにしかみえない家ともいえないものが密集し、王宮周りの貴族の邸宅などは、この砂漠に置いて花塗れどころかプールまでも完備しているという豪勢さだ。
「どうして得た金を、学校や、職が無い人々の為に雇用を生む工場などを作るのに使わないのだろう。」
「工場ではありませんが、女達を一か所に集めて絨毯は作らせています。大きな絨毯は女が一生かけて編むものです。昔は産業のない我が国にある唯一の売り物でしたが、今は、この国の金持ちが自分の邸宅を飾る目的で、貧乏人を奴隷のようにして強制的に編ませているのです。僕の姉は、母だって、絨毯の繊維で胸をやられて死にました。」
「デレク?」
――お前の姉はお妃じゃ無かったのか?
俺の不信など気が付いていないかのように、デレクは言葉を続けた。
「ご存知ですか?絨毯を完成できずに途中で死ぬと、途中まで作るために使用した繊維代や奴隷奉公させていた期間の飲食代まで借金として遺族に請求されるのですよ。給料だって渡してもくれなかったくせに!」
「デレク。本当は君は復讐がしたかっただけなのかな。明日処刑されるお姉さんは、本当はいないのかな。」
「――います。牢屋にいるのは濡れ衣を着せられた姉ではありませんが、明日には処刑される女はいます。」
「それは、誰かな?」
「僕の、僕の女房です。今は九番目の妻にされていますが、彼女は僕の女房でした。女房だったのに、奪われて、無理やりに九番目の妻になど。」
「彼女が殺されるのは、姦通の罪か。」
「いえ。十六番目の王位継承者、自分の息子を殺した咎です。」
「そうか。」
俺は王宮を眺め、子殺しの女を助けるべきなのか逡巡し、そして、自分で判断がつかないのならばと、賭けに任せることにした。
つまり、マホーレンのホームタウンを使用可能にしてやったのだ。
どおおおん。
王宮で突然起こった破壊音は、ザワークローゼン王国の隅々まで轟かせたと思う程の大きいものであった。
我らが空挺までも音の衝撃を受けて揺れたぐらいだ。
「ダグド様!」
操縦桿を握るアルバートルが俺に呼びかけた。
「大丈夫。マホーレンが家に帰っただけだよ。大事な大事な飛行機入りの格納庫ごとね。」
「格納庫で人死にはありませんか?」
「ない。一応あれが落ちても平気そうな庭に寸前で落としたからね。」
「ハハハ。あなたのどこが人間ごときの能力何です。可愛い格好は止めましょう。余計な悪心を周囲に抱かせる。」
俺は君こそあの可愛い姿に戻れと言っただろうとアルバートルに言い返したがったが、こんな面倒が毎日だったら嫌なので素直に従うことにした。
「君の言う通りだね。」
「それで、ダグド様。この後はどうされるのです?」
「まずは、降伏勧告だね。受けたら賠償金を貰ってそれでお終い。断ってきたら、我が領土への侵略の返礼として王宮を壊す。元貧乏人はね、富を失う事こそ恐怖なんだよ。貧乏に戻るぐらいなら死んだ方がマシだと思うぐらいだ。」
「わかりました。総員戦闘態勢を取れ。俺の降伏勧告の如何によって、直ちに戦闘に入る。」




