女の子は怖い②
俺はノーラの言葉にどぎまぎしていた。
え?俺?という感じに。
「いや、可愛がっているでしょう。え、可愛がってなかった?え?」
「だって、ダグド様はモニークとばっかり喋っている。」
俺は両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
どっちも同じぐらいに可愛い娘みたいなものだが、二人一緒の時には確かにモニークの方に話しかけていたかもしれないと気が付いたからだ。
最近は悪い虫がいるから、つい、だ。
「ごめん。俺は君も同じくらい好きだよ。話下手な俺のせいで傷つけてたのなら、ごめん。本当にごめん。」
しゃがみ込んだ俺の背中にノーラが重なり、ほんのりと背中が温かくなった。
その部分以外の俺は、絶対零度攻撃を受けたくらいにカキーンとなったが。
「ど、どどどどどどうしたの、ノーラちゃんてば。」
「だって、私は諦めていたのに、ダグド様はお姿を変えられるから。」
「前の方が良かったんじゃないの?」
「だって、あの頃の姿は素敵でも私には遠かったの。だから、大好きだけどエレ姐のものだって我慢できた。でも、今のお姿は、前よりも近くて、それに、シロちゃんが来てから沢山ダグド様に会えるようになったし、私は、わたしは、諦めていたのに、諦めてた気持ちが……。残酷です。」
前の方よりも今の方が好みって、ノーラは目が悪かったのか?
眼鏡を買ってやる必要があるのか?
こんなにきれいで可愛い瞳を、不格好なメガネで隠さねばならないのか?
俺の思考は完全に逃避行動を取っており、脳みその混乱に追従した目玉もぐるぐると回っていたようで、俺はキッチンのスチールに映る自分の姿を第三者視点で見る事になった。
これは俺ではない。
本当の俺よりも、とっても外見のいい男だ。
俺は自分の自意識過剰な自己顕示欲に笑いが来るほどである。
人は鏡をのぞくときは、自分の姿を脳みその中で修正した姿にして見つめると聞いた事がある。
俺は、自分がいい顔をしていると思った時のその顔を想像して、今のこの姿に作り上げていたのかもしれない。
俺は凄く嘘吐きで、でも、これが別の人生で俺が前世の羽藤唯斗では無いのだとしたら、第二の人生と言える今世、いいなと思えるこの姿で楽しく暮らしても良いのでは無いのだろうか。
俺はこの世界の住人でしかなく、ここがかけがえのない世界だと愛してもいるこの俺こそ、この姿が真実なのかもしれないでは無いか。
俺は後ろから俺の両肩に両手をかけているノーラの手を、両手でそれぞれをそっと掴んだ。
「ダグド様?」
「君を愛しているよ。でもね、俺にはエレノーラがいるんだ。これは君には残酷かもしれないけれどね、君は俺とエレノーラの娘同然なんだよ。俺のせいで行かず後家となったエレには申し訳ないけれどね。」
「ふふふ。では、エレ姐と子作りすればいいじゃないですか。以前にあなたが私達を勝手に花嫁にしようとした逆です。あなたは繁殖し、私はあなたの子供と結婚することで私も幸せになれる。」
「ハハハハ。ノーラは本当に面白い子だ。」
俺は立ち上がりながらぐいっと後ろにいたノーラを引き寄せると、再び昔のダグドの姿を取って彼女を子供のようにして抱き上げた。
静かに泣く彼女の頭をよしよしと撫でたのは、ついこの間のようであり、ずいぶん昔のようでもあった。
悪い父親だったと俺は彼女に謝りながら、愛おしい彼女を慰めていた。




