作戦行動の前に横たわる危機②
会議室に戻ってきたデレクは、慌てふためくようにして大騒ぎの声をあげた。
「お帰りじゃ無いですよ。僕の、いえ、マホーレンの部隊捜索は良いのですか?彼らは領民を惨殺に来た部隊でもあるのですよ!ってか、一人もいないって、もう、どうしよう。お願いします。領民に避難命令だけでも出してください!」
俺はイヴォアールに振り向いた。
「どうだった?」
彼はニヤリと微笑むと、軽く首を回した。
「簡単すぎて居眠りしそうでした。訓練としては、まぁ、なんとか。」
「だったら、利き腕封印ナイフサバイブでもすればいいのに。」
ぼそっとアルバートルが呟いた。
彼は飛行機を管制しながら部下達の戦闘を指揮管理しなければいけなかった事に、少々どころかかなり憤懣を持っていたようである。
「団長、そんな縛りプレイやって経験値上げるのはあなたぐらいですよ。」
アルバートルはスクロペトゥムのレベルやスキルを上げるためにと、一人縛りプレイでゴブリン砦などを攻略していたそうである。
製作者としてアルバートルのレベルのスクロペトゥムを育てるには、プレイヤーが廃人レベルのゲーマーだろうと見做せるぐらいのものである。
よって俺はアルバートルの28という年齢の割にはスキルもレベルもラスボス対応可能仕様なことに小首を傾げてもいたのだが、プレーヤーが操作しているわけではないアルバートル自身も廃人レベルのプレーヤーだったらしいという事だった。
うわぁ、知れて嬉しいよ、括弧棒読み。
「あの、どういうことですか!」
「あら、聞いていてわからない?あなた方の部隊はおやつ前にはシロロ様と竜騎士達の玩具になっていたという事よ。あなたは初めての飛行に夢中で気づいてもいなかったようだけど。」
「あ~あ。そのために俺が毎日彼を地上で扱いて、今日こそは飛行機に乗せてやるんだと考えていたのに、お前がその役を横取りだもんな。俺こそ飛行機に数える程しか乗っていないって言うのにね。」
「ふふん。わたくしが乗ることで彼が地上に意識を向けられなくなるのよ。」
「え、どういうこと?」
口を挟んだ俺は急に仲間外れになったようで、話題になったデレクは勿論イヴォアールもアルバートルも俺から顔を逸らし、エレノーラは夕飯の支度があると会議室から逃げて行った。
「では、ダグド様、私もこれで。」
「あぁ、コントラクトゥス。こんなに長々とすまなかった。今日はありがとう。」
「いえ。あなたがこうして重用して下さることで、私はここの領民の皆様に良くしてもらえるのです。ありがとうございます。」
深々とお辞儀をしてから出て行ったコントラクトゥスを見送りながら、純粋に感謝と取るべきか皮肉と取るべきか、人間のろくで無さばかりを見せつけられた今日の俺は一瞬考えてしまった。
「君達はどう思うのかなって、あら。」
俺は腕の中で眠っていたグリとウィンを手近なソファに転がせると、適当な所で寝ているシロロの肩を揺すった。
「う、ううん?」
「寝るのだったら城で寝よう。俺の背中に負ぶさって。ちび達を抱えなければならないからさ、お前は自分の手足でしがみ付いてろよ。」
眠そうな目を二度三度瞬きした彼は、俺を見上げてにっこりと笑ってイヤダと言い、床に再びごろりと転がった。
「おい。」
「すぐお夕飯だし、ここでいいです。それにあの子たちはベッドよりも適当な塩水につけてあげればいいですよ。だって海の子だもの。陸上に出したままだと干からびて死んでしまう。一か月持つとは思わなかったけど、クラーケンの血を引く子供はさすがに強いですね。」
「こら!もっと早く言えよ!」
俺はグリとウィンを抱え上げるや、俺の城へと、エレノーラの向かったキッチンへと走り出していた。
あぁ、塩水、塩水。
この世界の海水は何パーセントだっけ?




