デレクの事情
俺の正面に立つデレクという青年が、命令に従えないという意思はありながらも一歩も退けられないという風に固まってしまった。
俺はその様子を目にした事で、彼がマホーレンに従わねばならない事情を俺が彼に尋ねなければならないのだろうと、嫌~な気持ちになっていた。
聞いたら絶対に余計な責任どころか大仕事を負うだろう。
そんな感じがぎゅんぎゅんくるのだ。
俺の膝にふわっとしたものが乗り、見れば、私達はあなたを信じている風に、エレノーラがそっと手を置いたところだった。
俺は不安でも心細いのでも無くて面倒が増えるのが嫌なだけです、と伝える方が怖いと観念して、デレクに対して口を開いた。
「デレ――。」
だが俺の問いかけは最初の二文字で終わり、なぜならば、被せて来た男の声に俺は口を閉じざる得なかったのだ。
いや、あんぐり口を開けたが正しいか?
「簡単な事だよ。俺達の兄弟になりたいって言えば、君の問題は今すぐに解決する。神は助けてくれないが、ダグド様は必ず君を助けてくれる。」
「あぁ、それが出来たら。」
イヴォアールがデレクの肩を抱き、瞳を絶望色に染めてしまったデレクが号令どころか自らを終わらせようとしたナイフを持つ手を下ろした。
畜生と、俺は両目もぎゅうっと閉じてしまったかもしれない。
俺はどうして前回の戦後処理の時に、イヴォアールも一緒に処理しておかなかったのだろうかと、優しすぎる自分に問うた。
いや、処分するべきは団長であるアルバートルこそか?
団長である彼は、俺の表情を読むなりぐるりと俺に背を向けて、なんと、体を二つに折って笑いの発作に耐えているのだ。
「もう。君達は俺をお父さん呼びするけどね、俺を都合の良い男扱いしているだけでしょう。全く。」
「ハハハ。違いますって、なぁ、イヴォアール。」
「違いますよ。あなたは誰も見捨てない。だから俺達もあなたを見習って、この可愛いクリーチャーズを助けてしまったくらいですよ。」
俺は膝の上のにろにろ姉妹を見下ろすと、彼女達は大きな目をぐるっと魚のように回してから、ダグドダグドと連呼しながらにろにろした。
俺は俺の後ろに立っていたはずの自分本位な魔王様に振り返り、畜生、あいつは飽きたのか昼寝中だ、と、俺が期待されるか放置されているという寄る辺のない身の上でしかないと確認したので、仕方が無いとデレクに再び向き合った。
「助けてやるよ。ただし、状況は一刻と変るものなんだ。助かりたいなら時間を無駄にするな。」
ハハ、ハハハハ。
「無理です。もう、無理です。俺の姉は死んでしまう。」
彼の姉はザワークローゼン王国の第九夫人なのだという。
彼女は王国で第三夫人に着せられた第十六王子暗殺の濡れ衣により、絶賛軟禁状態中なのだそうだ。
あぁ、面倒くせぇな。




