ここで緊急速報です‼的事態発生
マホーレン議員はまほーが名前に付くだけあって、魔法使いだった模様だ。
そして彼は自分のものにならないのであれば、他人のものである事など決して許せず、欲しいものそのものを破壊してしまおうという短絡的な考えの人でもあったようだ。
彼は格納庫に火を放ったのだ。
「ハハハハハハ。これはただの炎ではない。召喚獣のサラマンダーの炎だ。今からコイツはここを焼き払い、次にはお前の領地を、お前の居城をも焼き払う。聞いたぞ。お前は張り子の虎の竜なんだろう。恐れ多いと不可侵だった黒竜様が、実は人間程度の力しか持たない偽りの竜だったとはお笑いだ。」
マホーレンの呼び出した炎には確かに時々トカゲのような影が映り、その炎は飛行機を避けて壁を焼き、天井を焼き、勢いを増していく。
だが、飛行機を避けて、とは、お笑いでしかない。
「ここで問題です。マホーレン議員様。さて、俺は何機飛行機を所有していたのでしょうか。」
「何を急に。」
「いいから、計算してみてくださいよ!まず、黒い小型の一人乗り。これはフェレッカに行っている。次に、二人乗りのプロペラ機。これはトレンバーチでデモンストレーション中だ。あとは、もう一機の二人乗り飛行機と、あなた方に融通する予定だった貨物部分ありの一人乗り飛行機です。」
「だから何だって。あ。」
「そうです。だったら、この格納庫には二機しか残っていないはずなのに、おや、全機がある。なんて不思議な出来事だろう。」
「ははは、ダグド様。二人乗りのプロペラ機が残っている筈がありませんよ。フェールとカイユーがフェレッカに乗って行ったでは無いですか。」
「ハハハハハハ。そうだった、そうだった。じゃあ、一機だあ。一機。あなた方がお支払い済みで、本来ならば普通に、苦労することなく、手に入れられた一機だけだあ。」
俺とアルバートルが嘘くさい掛け合いをしてマホーレン議員を揶揄っているその時、無いはずの機体が全て大きくはじけ飛んだ。
「うぉう!」
マホーレンは大きく驚き、そして俺も驚いた事だが、マホーレンを爆風から身をもって守るべく彼の騎士たちが盾となったのである。
「みみっちぃ奴の割には、人望があったのねぇ。」
「ダグド様。みみっちいなんて、ぶふ。」
「うわあああああ。わが通商の船が!代金を支払ったばかりの俺の船が!うわぁああああ。」
通商云たらとペイントのあるヘリコプター型の一機が、引火して紙くずのように燃えだして炎に巻かれているのである。
「一機の代金で四機もものにしようなんざ、欲の張りすぎですよ。ねぇ。手に入らなくても返金は出来ませんよ、ご自分で壊されたのだから。」
マホーレンはがくりと膝を床に打ち付け、自分の成した事に対してしばし茫然と眺めた後に立ち上がり、次に移るであろう彼の行動を俺達が想像しやすくするだけの低い笑い声をクククと立てた。
「ちくしょう。……燃やしてやる。ぜんぶ、お前らの領地を全て燃やしてやる。俺を馬鹿にしやがって、このデミヒューマン風情が。」
「そこで、止めれば後戻りはできますよ。」
「やかましい!デレク、皆殺しだ!そこにいる奴らを全員殺せ!コイツは竜なんだろう!領民殺しも全部コイツの仕業だ。潜ませていた兵隊を全員動かせ。今からここはイグナンテス教皇の名のもとに、ザワークローゼン王国の第十五王子であるアドブラ・マホーレンが、神に代わって異教徒達を管理し統制することを宣言する。」
自分が呼び出した炎の中で勝手なことをほざくマホーレン議員は気分が良いであろうが、俺を殺せと命じられたデレクは命令通りに動くかと考えたが、彼は真っ青な顔で首を小さく振って後退りをしているだけだった。
俺は煩い放送を一旦切ると、デレクに向き合った。
まぁ、彼の顔を真っ直ぐに見てやったというだけだが。
「デレク、君は今すぐマホーレンに連動しなければいけないのではないのかな。冷静に考えなくとも、君の実力ではアルバートルは勿論、イヴォアールにも敵わないとサーチアイも持っていない俺は思うのだけどね。そして、大事な一点として、君自身は殺戮を望んでいない。」
真っ青な顔をした彼は、俺に返事を返さずに、神よ、とだけ呟いた。




