チャンネルは、そのまま②
「ダグド様!」
俺はノーラの呼びかけで再びモニターに目線を映した。
「あ、ああ。俺も海の幸が食べたいから、干物をありったけ買ってきて。」
「どうやって食べるのですか?」
「そのまま焼けば良いんじゃないの?」
「私が調理しますから心配しないで。タラの干物を久しぶりに食べられるなんて、なんて楽しみなことでしょう。」
俺はエレノーラに振り向いた。
「いつだって君の欲しいものを買えばいいでしょう。」
「あら。いくら日持ちのする干物だって、痛むからって内陸では売っていないのですよ。ディ・ガンヴェルの街の一つが内海に面していますけどね、同じ国の都市のはずのトレンバーチにだって流通がないのです。それに、今回のモニーク達のいるフェラッカは西の森が遮っていたから、今までは行き来も出来なかったのですものね。」
地理的に俺の領地が富士山だとすると、都市を街道でつなぎ合って上空からは五芒星のように見えるディ・ガンヴェルは神奈川と東京、そして埼玉千葉を含んだ都市となる。
また、教会の勢力地となるガルバントリウムが静岡県の伊豆半島と神奈川県をプラスして、三原山のある大島をおまけに付けた感じと考えれば良いだろう。
そして今回の台風被害のフェレッカが静岡市と考えると、全て方角的にも距離的にもそんな感じだ。
ただし、フェレッカとダグド領の間は青木ヶ原樹海よりも深い西の悪魔の森と呼ばれるものが広がるので、エレノーラが言った通り、陸路しかなかった今までは交易が不可能だったのだ。
「交流も出来たし、これからは、君が食べたい時はいつでも手に入るね。」
「ふふ。そうね。うれしいわ。」
俺とエレノーラは、お互いに顔を合わせてにっこりと笑いあった。
最近聞いたのだが、アルバートルとエレノーラは父親を海で亡くしたあとは母親までも急死し、兄妹で親戚の農家を頼って内陸に引っ越したのだという。
そこで妹が俺の生贄にと村民に差し出された事が、十四歳位の無力だったアルバートルの身に起きた不幸である。
はうっと息をのむ音がして、アルバートルが泣いたのかもと振り返ったら、泣いていたのはアルバートルではなく、彼の隣に座っているイヴォアールだった。
褐色の肌に灰色の髪に灰色の瞳と言う砂漠が似合いそうな男は、砂漠の王子様のようなハンサムな男でもある。
彼は象牙のように輝く歯を持つ口元を左手で覆って、思い詰めた様な涙をほろっと流していたのだ。
「あれ、君も港育ちだったの?」
「違います。なんて、モニークが可愛いんだろうって。」
「君は話が逸れてしまうから黙っていて。」
イヴォアールは最近というか、付き合ってもいなかったが、靡きそうだったモニークに完全に振られたのだそうだ。
振られた理由は話が逸れるので言いたくない。
「で、デレク君?本当の話を聞きたいな。クラーケンが街を襲ったのはほんと?それとも、この俺を騙すための、うそ、なのかな?」
デレクはむぐぐと言葉を失い、そんな無言となった彼を代弁するかのように、俺の乙女二人がキャーと悲鳴を上げた。
モニークもノーラも、俺がすぐに行けない港町で、通商云たらのお仕着せ、デレクが身に纏っている制服と同じ姿の騎士、それも六人もの男達に囲まれて、それぞれが羽交い絞めされてしまったのである。




