黄昏るダグドは空を見上げる
俺は腕に抱える幼女をどうしようかと、本気で悩んで黄昏ていた。
家に連れて帰れば絶対にシロロが機嫌を悪くして彼女達を攻撃するかもしれないし、彼女達こそシロロに対して攻撃するかもしれないのだ。
「どうしようかな。」
俺は悩みながら、俺に子育てを押し付けられた経験ばかりのエレノーラに助けを求めることにした。
そして、彼女がいるはずの差配人室へ向かったが、彼女は不在であり、なんと、彼女の兄が居座る第一の城壁にある見張り台に出掛けているというのだ。
「え、どうして。」
頭上でプロペラが回る音が聞こえ、俺は全てを悟るしかなかった。
先月の戦いで空路にこそ活路を見出した俺達であったが、魔法力で空を飛べることを諸国に知らしめてしまったがために、人々は陸路からより安全な空路へと大志を抱いてしまったようなのだ。
そして、破壊竜と名高い俺は、商人の心こそ強く持っている。
よって、飛行機を数機作り上げ、そのうちの一つを売ってやると通商云たら会に持ち掛けたのである。
代金は勿論もらうが、最初に売ってやる見返りを求めた。
ダグドの民がいついかなる状況でも通行証を発行してもらえる権利と、ディ・ガンヴェルとダグド領の過去の諍いへの仲介である。
俺はディ・ガンヴェルとは仲違いのまま自由市の設立も考えていたが、世情が変わったのならば、ここは大きく売りに出て、商人の仲間入りをした方が得策では無いのかと方向を変えたのだ。
領民全員が俺の判断に従うと言ってくれるからこそ、領民に経済封鎖を味合わせるなんて俺には出来ないのである。
教会が教義を失い、白魔法が消えたこの世界なのだ。
医者の技術が中世並みだというのであれば、人の病を治せる薬は、今一番確保しなければならないものといえよう。
それには貿易が必要だ。
俺はプロペラの音に再び顔をあげ、二人乗りの飛行機に乗っているであろうエレノーラの喜びで輝く顔を想像した。
想像だけなのは、空を飛ぶ飛行機は俺の手を離れている。
勿論、いざという時に俺はその機体へと意識を飛ばせるが、機体には俺の領地の城壁にかけてある防御魔法と同じ学習機能付きという、自動操縦魔法を仕込んだのである。
つまり、俺の城壁が困った人間に勝手に門扉を開くように、飛行機は操縦士がシートに座れば空に安全に飛び立つのだ。
そして、他国の魔術師がその自動魔法を弄ろうとした時点で魔法は消滅する、という仕掛けも入っている。
「売る奴には、その飛行機で領土を攻めて欲しくないからね。そして、俺が飛行機を供給することで、彼らは自分達で開発する気が起きなくなる。空はこの俺のものだ。」
水色の空には真っ白な飛行機雲が真っ直ぐな筋を作っていた。




