戦後処理
戦が終わればその処理というものがある。
我がダグド領に置いては奪還した捕虜たちの身の振り方だが、それは新たに住人となっているコントラクトゥスに全て一任した。
デーモン族の子供二人はもともと彼の庇護下のものであるので問題はなく、ハイエルフの子供一人に関しても、子供の姿をしているだけで五六歳だと言うので大丈夫だろう。
ただし、キメラ族の二人の子供については、俺がキメラ族を知らないという点と知っている筈の魔王様に振り回されている点で、俺としては、俺よりもこの世界を知っているコントラクトゥス大魔導士様に押し付けるしかないというのが真実だ。
だって、キメラの子達、意思の疎通が出来なくてマジで怖いんだもの。
表情がわからない程に悪魔顔であるコントラクトゥスであったが、物凄く嫌です、という意思が窺える表情を俺に見せながらも受け入れた。
俺の躾を受けたシロロを目にしているのだ。
俺が躾をしたキメラの子を押し付けられる未来もあると考えれば、彼は受け入れるしかないであろう。
そして、裏で自分達をめぐって押し付け合いがあった事を知らない子供達は、ぼんぼりが下がる祭りのような雰囲気の広場で、おっかなびっくりしながら久しぶりのちゃんとした食事に舌鼓を打っている。
救出したばかりの彼らは数日の絶食を受けているということで、昼飯は牛乳粥と言う俺が二度と食べたくはないものだったのだ。
「あなたが牛乳粥を食べるとは思ってもみませんでしたよ。」
俺の隣にアルバートルが座った。
俺は既に広間の食事用テーブルから離れ、殆ど立食パーティとなっている夕食を楽しんでいる領民を眺めていられるようなベンチに腰を下ろしているのである。
「だって、あの子たちが怖がって食べないからさ。仕方が無いでしょう。」
「じゃあ、俺を仲介して自分の魔法を使えるのに、俺に突風魔法を唱えさせたのは、やっぱり、俺を思っての事なんですね。」
「君は事あるごとに、突風突風と煩いもの。これで静かになるかなってさ。」
「はははは。」
彼は大げさに笑い声をあげた。
俺はあの時、敵による教会の暗部そのものといえる行動を、彼自身に壊させたかったのだ。
彼のように清々しい風で、淀んだものを吹き飛ばす。
「すっきりしました。本当に。きっと空を飛ぶのもあんな感じなんでしょうね。」
「アルバートル。君こそ猛ダッシュで試験パイロットを逃げたくせに。」
「じゃあ、あれは?俺はあんなにすごい砲弾は初めて見ましたよ。」
俺は慌てて横に座る男を見返した。
アルバートルは嬉しそうな笑顔を見せると、右の人差し指で自分の目元をトントンと叩いた。
「いや、君のサーチアイはそこまでの機能は無いだろ。」
「あぁ、新しいスキルが生まれたんですよ。シロロ様を背負った時に。シロロ様が言うには百鬼眼システムだそうです。」
俺はそこで今日はやけにアルバートル隊の面々に遊んで貰っているなと気が付いて、なんてろくでなしだとシロロに目線を向けた。
彼は司祭戦士になり損ねたエランと嬉しそうに両手を繋いで、エランによって大きくぐるぐると振り回されていた。
「うわぁ。あいつは遊んでくれるお兄さんを戦利品で手に入れたのか。何て奴。」
俺の横は再びワハハと大きく笑い声をあげた。
「新たなスキルが欲しくてちやほやし始めた俺の団員こそろくでなしですよ。」
「ははは。団長様は新たな武器が欲しくて俺をちやほやしているしね。だけどね、あれは武器じゃないから君に上げられないよ。」
「武器でしょう。物凄い威力の。」
「うん。物凄い威力だからね、あれは武器にできないの。あれはね、俺の領土に、あるいは俺の領民に何かしたら撃つぞって脅しなんだよ。そしてね、脅しにするには威力を見せなければならない。そこで今回は撃った。けれど、相手に見せてしまった事で、相手も欲しいと作り出すかもしれないね。でも、作ったからと使えばお礼代わりに使った相手に撃ち込まれるのは確定だ。作った奴は、あれを使えないまま、威力だけは増したあれが自分の庭に増えて頭を悩ますことになる。そういうろくでもないものなんだよ。よって、君には不要だ。」
「うーん。大砲よりももう少し威力のあるものが欲しかったのですけどね。」
真っ直ぐな男に持たせるには、真っ直ぐにしか飛べない武器はどうだろうかと、俺は急に思い立った。
レールガン。
俺の夢の武器だ。
「ダグド様は、俺達にいつ本当の姿を教えてくれるのですか。」




