父と子と
先頭にいたシロロがぎゅーんという擬音をつけたくなる動作でコントラクトゥスの所にまで走り寄って来たかと思うと、彼は今さっき声がした檻の前にしゃがみ込むと、顔を柵にぶつける勢いで中を覗き込んだ。
エランは動かずに彫像のように立ち尽くすだけで、アルバートル隊はそんなエランが動き出したら押さえつけようと陣形を変えた。
がっきゅん。
シロロが両腕を檻の柵の棒の間に入れたと思ったら、そのまま両腕を左右に振り払うように開いたのであるが、彼の腕に払われた柵の棒は発泡スチロール製かと思うくらいに簡単に外れて弾け飛んだ。
「シロロ。お前はそんな事ができたのか。」
シロロは俺の声掛けに振り返りはしたが、動作も振り返った顔も、失敗した大昔のゲームのようなカクカクのポリゴンともいえるようなものである。
「お前、どうした。」
「ラピデン、ツカイマシ、タ、デス。ア。」
石化魔法を自分に掛けて檻を壊したのか。
理解するどころか、彼が完全石化で固まってしまったので、間違いないと確信せざるを得ないが、俺はもうお手上げだ。
しゃがんだまま両手を水平に広げているという間抜けな石像を、これから一体どうしたらよいのかと、俺は本気で悩んでしまった。
「ダグド様。」
「コン、お前は石化解除の魔法は持っていないのか?」
「ダグド様こそ。」
俺の意識は実体に戻って、あぁどうしようと自分の頭を支えた。
「……か、みの……みここ……は、さいわい……なれ、……ゆ……ゆるされ……し、しゅく……ふくの……。」
俺は石化を解く詠唱を聞いたような気がして、意識を再びカタコンベに戻した。
「神のみ心は、幸いなれ。許されし、しゅくふくの……祝福を受けた子らは神の御心を知り、我が罪、我が汚れを注がんと祈りを捧げる。あぁ、素晴らしき我らが神。」
檻の中からの途切れ途切れだった司祭の詠唱の後を継ぐように、エランが続けて詠唱しながらシロロの肩に触れた。
エランに触れられたところからシロロは柔らかさを取り戻し、しゃがんで手を水平にした格好のままごろんと仰向けに転がった。
俺はエランにありがとうと言いかけて、何も言えなくなった。
彼は涙を流しながら人であっただろう肉塊を檻から引き出して抱きしめると、そのまま動かなくなってしまったのである。
彼は、父さん、と呟いていた。




