カタコンベ
地下を迷路にして死者を安置するのは、蘇った死者や死者に取り付いている疫病神を、地下の迷路によって迷わせて生者の国に戻さないという目的でもある。
だがしかし、ガルバントリウムのカタコンベは、全く別の宗教観を持った教団どころか、別文明があった都市の廃墟の一部では無いかと俺に思わせた。
俺と友人の設定ではただのカタコンベでしかなかったはずだが、アルバートル隊が歩き続ける周囲を見回すごとに違和感だけが増しているのだ。
これは、俺達が作り上げた世界ではない、と。
通路は人間の為に作られたにして広々としている上に天井が高く、人間が地下に穴を掘ると考えれば無駄にしか思えない造りである。
さらに、壁には時々レリーフも施されているが、絵の具が落ちていない部分だけでも信仰する神の姿としか思えないもので、そしてその神の姿はガルバントリウムの神では決していない。
女は男の血肉を分け与えられて出来上がった付属物であり、正しい男に従うものでなければいけないという教義を持たせたがために、友人はその神の名を男根を意味するマラという隠語をもじって名付けた。
思いっきり既存神を冒涜する行為であるが、彼がそう言えば教団の破壊もゲームの一部にすると言っていたことも一緒に思い出した。
友人が、どうしてここまで唯一神を奉じる既存宗教が女性を貶めるのかの自説を語った事があるが、古の族長などの奉じる原始宗教である神が悉く女神だからだろうという事だ。
宗教は人に心の平安を与えるどころか、他国を侵略するための大事な道具ともなりえ、国を治めるための大事な道具ともなるのである。
それでもこれはゲームの話であり、いくらゲームだからと言っても、投棄された他種族の廃墟で人体実験をしても良いという事にはならないだろう。
目を逸らした所で、広い通路のところどころに檻が置かれて、その中に人であった死骸や、助けられない状態に体を変形させられた虫の息の人間などが入っていて、時々俺達に緊張を走らせる人のものでない足音さえも木霊しているのだ。
「ガルバントリウムの人間は、ここで永遠の命を探っていたのかね。」
「そうでしょう。この壁画は竜族のものです。彼らは長寿で、永遠に近い寿命を持っていたと聞いています。」
答えたのは囚人のように頭も肩も下げてアルバートル隊の一番後ろを歩くコントラクトゥスであり、彼は俺達の旗を子供のように抱え直すと言葉を続けたが、彼の話す竜族の滅亡の理由は哀れとしか言えなかった。
「彼らは人型も取れます。人間と同じ外見を保てますが、そのことに脅えた人間達によって捕らえられ、正体を現させるために拷問を加えられました。」
「拷問で竜族だと知られればそこで処刑か。人間でないものが人間を欺いたという咎で、彼らの財産も奪えるね。」
「目的はそれでしょう。あぁ、罪もない命が、悲しい事です。」
「……はぁ、えら……はぁ。」
エランを呼んだ声は、囁き声どころか人のため息程度のものだった。
すると、ガツんと、ブーツを床に打ち付ける様にしてエランの歩みが止まった。




