破壊の竜騎士
モニークは旗を立て、自らの安全地帯を確保した。
地面に旗が刺さると同時に、白馬に乗った黒騎士が地面から生え、彼はそのまま馬を駆りたてて敵本拠地へと走り去っていった。
馬に飛び乗る白い影も一瞬見えた気もするが、それは俺の錯覚だろう。
彼は旗を抱えているという不安定な状態ながら全速力で馬を走らせ、次々と敵を交わしては予定地へと近づいて行った。
しかし、旗を立てる予定地のあと百メートルという手前で、アルバートルの馬は足を止めることになる。
人の盾が彼を遮ったのである。
俺はその情景にアルバートルと同じに歯噛みをした。
「近づいたら、あの無力な人間達を火にくべるときたか。俺達敵の方が人道家だと、正義そのものだと、認めているような行為だな。」
火をくべたら一瞬で燃え上がるだろう火刑台が数台作られており、そこには縛り付けられて死を待つ人々、奴隷なのか信者なのか、ただの脅しの演技なのか判断はつかなかったが、確かに脅えた表情の人々も搭載されていたのだ。
「どうします。」
「俺の突風魔法を使え。今のお前は俺の仲介者だ。」
「はい。ハハハ。」
アルバートルは旗を左腕に持ち替えると、呪文の叫びと一緒に右腕を全てを薙ぎ払うようにして大きく振り払った。
「インペティスウエンティー!」
火刑台は風によって柱は折れて積み上げられた藁や薪などは姿形も無くなり、あとは縛り付けられたまま転がる人々と、僧衣を捲り上げられた姿でみっともなくそこかしこで転がっている僧兵である。
アルバートルは大きく笑い声をあげると、馬を嘶かせて駆け出した。
俺にも彼の自由の喜びが感じられた。
元は妹への復讐のために異形と戦う教会の兵士に身を落としたのであろうが、腕や名をあげるたびに教会の暗部を知るどころか手伝わされる日々だ。
彼こそ本心で教会を憎んでいた人間であり、教会からの死の恐怖に縛られていた虜囚であったのだ。
彼は馬から飛び降りると、そこに深く深く俺達の旗を打ち込んだ。
全ての鬱屈や怒りを込めて、だ。
しかし、彼の怒りは深すぎ、そして、単純馬鹿なために今の自分が俺の仲介者だったという事を忘れ去っていた。
旗を突き立てた行為により地面はひび割れて大きく陥没し、彼は旗を両手で掴んだ姿のまま、地下のカタコンベへと墜落したのである。
「え、えぇと、エレノーラ、お昼ご飯の準備をそろそろしてくれる?」
俺は会議室に残ったエレノーラ達乙女隊に、これ以上の哀れなアルバートルを見せないようにと、おろおろと考えてしまっていた。




