付け焼き刃的作戦だが、突入作戦開始②
「モニーク。何も無いか?飛竜の影が見えたらすぐに逃げろ。」
これは俺ではなく、イヴォアールである。
昨夜に空を飛んだ話が聞きたいとモニークに話しかけて、そのままモニークを口説いたという、作戦が終わったら俺に殺される予定の男である。
褐色の肌に灰色の髪に灰色の瞳をした美丈夫が、男友達のようにして話しかけてくれば、女の子らしくできないと悩むモニークにはツボだったに違いない。
乙女軍団の中の一人では手が出せないが、仲間外れになった途端に狙うとは、なんて冷静沈着で計算高い男なのだ。
象牙を取られて殺される象のように殺してやる。
「いいや、逃げるな。お前には俺が付いている。」
「お父さん!モニークの安全が第一でしょう。」
「お父さん言うな。お前はまだ認めてねぇよ!」
「そろそろ時間です。」
「何の時間だ?アルバートル。」
「飛竜が放される頃合いです。」
アルバートルが静かに答えた。
「ダグド様!何かが向かってきます!」
モニークの焦った声に被さるようにして敵機を知らせるアラームがモニークの乗る機体で騒ぎ立て、そして、その音は見守る俺達にも聞こえている。
「逃げて!モニーク。いいから逃げてきなさい!」
エレノーラが母親のように叫んだ。
二十六歳という年齢のエレノーラは、俺の門に捨てられた乙女達を俺に一緒に育てさせられて婚期を逃したという過去と日々の実績がある。
つまり、乙女達には姉であり母でもある存在なのだ。
エレノーラこそ乙女達を娘か妹と思って強すぎる責任感を抱いているようだが。
俺はエレノーラに落ち着けと彼女の手の甲を軽く指で叩き、それから、これから初陣を迎える兵士に命令を与えた。
「いいや、逃げるな。このまま真っ直ぐ。わかるな。」
「はい。ダグド様。」
モニークの真剣な声に会議室の全員は拳を握り口を閉じ、そして、その数秒後に、会議室の俺以外は目を見開いて息をのんだ。
飛竜の登場である。




