付け焼き刃的作戦だが、突入作戦開始①
モニークの乗る小型飛行機は、日の出を合図に、一路、攻略対象である悪魔の島へと向かっている。
飛行機の操縦席にいる彼女が着ているのはツナギだが、俺のツナギではなく、新たに作って与えた飛行服だ。
上空では気圧が違うため、彼女の身体を温める服が必要なのである。
厚手の布で作り上げたカーキ色のツナギを着た彼女は、自分の責任の重さに青白くなった顔を真剣な表情のまま硬くしているが、それでも彼女の両目は青い空の中を飛ぶ行為に魅了され続けて輝きを増しているだけだ。
「モニーク、もう少し力を抜いても大丈夫だよ。俺が付いている。」
「あぁ、俺はその台詞を耳元でやられたら腰が砕けるかも。」
「石をぶつけるぞ、カイユー。」
領地に残った俺達は全員がアルバートル隊の秘密基地の会議室に集まり、モニークの動向を全員で一心に見守っているのである。
どう見守っているのかは、魔法世界ならば簡単な事だ。
魔法使いが水晶を覗くように、俺は大型スクリーンを作ってそこに俺の見える映像を流していると、そういうわけだ。
乙女隊は初めて見る空の世界に純粋に喜びを見せ、アルバートル隊はその世界に飛び込まなかった自分こそ呪っているかのように、全員が全員歯噛みしたような顔で一心にスクリーンを眺めている。
そして、そんなアルバートル隊は、今や黒と赤に装飾されている。
昨夜のアルバートルの戯言もあるが、俺の服を着せる事で彼らは俺の領民となり領土の一部となるかもしれないと、彼らの身を守る鎧とするべく作成したのだ。
黒地にダブルの銀ボタンが並び、必要性を知らないが格好よく見える肩章も配置した、詰襟タイプのナポレオンジャケットである。
勿論ズボンとベルトとブーツまでも揃えたという完璧さだ。
そして、彼らが欲しがった愛を見せるために、頭領であるアルバートルの制服には、全員のエポーレットを飾っているソウシタエ(紐で作った飾り)と同じ、真っ赤なタッセル付の紐が飾緒として左肩から左胸を飾ってもいるのだ。
飾る勲章が無くて寂しくなった右胸には、竜騎士隊を表わす銀バッジを飾った。
途中からお遊びと嫌がらせとノリで作った派手すぎる軍服であるが、アルバートル隊が中学生の男子のように大喜びする様を見て、俺は自分が汚れ切った大人だったと自嘲しなければいけなくなったほどである。
「女の子に棒を操作させて、リラックスしろだなんて、ダグド様って嫌らしい。」
本気で中学生だった。
俺は発言者のカイユーではなく、一斉に噴き出したその他のアルバートル隊を出来る限り殺気を込めた目で睨みつけた。
「うるさいよ。ハンドル型よりもこの形の方が嵌るって気づいただけだよ。」
飛行機の操縦桿はジョイスティックに換えた。
そちらの方が狭い機内では操作性もよく、また、ジョイスティックにはボタンが付いているという点が、モニークを戦場に飛ばした身としては必要不可欠だと考えたからである。
保健体育の授業中のようなアルバートル隊は置いておいて、俺は再びモニークに意識を飛ばした。
彼女は半分以上の距離を飛んでおり、現在の飛行地点は既に完全なるガルバントリウムの空域内である。