開戦の前の内部分裂
モニークと俺の意識が遊覧飛行から戻った後は、俺はエレノーラとかなりの修羅場になるかと脅えてもいた、が、彼女はなぜか俺に怒る事はしなかった。
それどころか、俺に対してニコニコするだけという、従順すぎる程に恭順の意を見せたのである。
これはきっと彼女的な嫌がらせに違いない。
俺はこの針のムシロが数日はあるだろうが耐えることにして、とりあえず、皆が望んでいたコントラクトゥスの子供奪還作戦の概要を皆に知らしめ、明日にでも行動を移すべきだと口を開きかけた。
「次は私たちですよね!」
黒髪が気の強さを表わすという言い伝え通り、少し気が強く意地悪なシェーラが、機体の前に降り立ったばかりのモニークをどんと大きく突き飛ばした。
意地悪と言っても、寝ている人間の頬や瞼に悪戯書きをする程度の意地悪人間だが、そんな彼女が本格的な悪役ともいえる行動を取った事に驚いたのは俺だ。
「そうです!次は私たちです!」
蜂蜜色の髪に少々ぽっちゃりのリリアナまでもが、悪役令嬢張りにずいっと一歩前に出て、突き飛ばされて呆けているモニークをギロっと睨みつけたのには驚いた。
お前はぼんやりおっとりキャラだっただろう。
いや、音痴だという俺に無理矢理歌わせたりする人でもあったな。
「そうそう。何をあんたばっかりいい思いしているのよ。ダグド様はね、皆のものでしょう。そうじゃないの!」
言葉尻の最後が金切り声となってしまった叫びをあげたのは、常に冷静であろうとするノーラだった。
物静かで数字が大好きだという才女は、俺をも分配するつもりか。
彼女は今まで殆ど声を荒げることもせず、そして、本の虫のモニークの一番の友だったはずだ。
いや、屋根の上から飛び降りようとしたな。
「あぁ、もう。あんたっていっつもさぁ、いいとこどりだよねぇ。」
イルカのコピー絵だって原画同然の値段で売り飛ばせそうなアリッサが、客がケツを撒くって逃げ出しそうな下品ではすっぱな声を出した。
君は一番お子様だったはずでしょう!
「ちょっと、どうしたの!君達は!」
「ダグド様は黙っててください!」
俺は乙女達四人に一斉に怒鳴られて、しおしおと小さくなるしかなった。