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あぁ、これが神が見る世界だ

 モニークを乗せた飛行機は、無理やりな俺の魔法助力によって空へと急上昇させられた。


 そして俺は気がついた。

 俺こそ飛行機そのものになっているのか? と。

 飛び立つときにかかった重力にぎゅうっと目を閉じているモニークの姿どころか、俺の視界は上空から俺の領地を見下ろしてもいるのだ。


 それだけでない、俺は両足が地面に踏ん張っているという肉体の感覚は全く失っていない。空に浮かぶ小さな烏を仰ぎ見ている俺はちゃんと意識できるのだ。


 まるで、夢の中で空を飛ぶという感覚であろうか。

 ただし、俺は久々の解放感に有頂天になっていた。

 竜の肉体で生活していた記憶はないはずなのに、俺の体が覚えている竜であった時の感覚だ。


 なんて素晴らしき天空の世界よ。


 夕日によるオレンジ色の帯が薄紺色の空を飾り、ミッドナイトブルーとなった空の頂点では星々が輝いている。空から見下ろす風景は、夕日が落ちようとしている今は影が広がるが、領地の灯りがまるで地上の星のようにキラキラと輝いている。

 夢のようだと思うのは、粉が散っているかのような白銀の輝きまでも纏っているように見えるからだろう。

 俺の領地は何て美しく、温かい世界なのだろう。


「我は自由ぞ」


 俺の中で俺でない何かが舌なめずりしながら囁いた。

 竜であった俺が押し殺したはずの意識だ。

 俺の背筋はぞくりと凍え、お陰で俺は冷静になれた。

 今はモニークに集中だ。


「さぁ、モニーク、目を開けて。何が見えるかな」


 ぎゅうと目を瞑っていたモニークは、恐る恐る目を開ける。そして、俺をも幸せにするような驚きと喜びの表情で顔を輝かせた。


「すごい。あぁ、すごい。あたしの夢そのものです。あたしは空を飛んでいる。あたしはこんなにも星の近くにいます」


「そうだね。俺達は星の世界にいるね」


「ダグド様!」

 

 びっくーん。

 再び俺の背筋を凍らせて俺を地上に落としたのは、エレノーラの怒声だった。


 びくりと彼女に振り返ったせいで、一瞬モニークの飛行機から意識がそがれ、飛行機は木の葉のように揺らめく。


「しまった」


 俺は再び意識をモニークに向け、自分の身体を第一の城門へと転送させる。


「きゃ、きゃあ!!こ、こういう時は!!」


 機内のモニークは叫んではいるが見た目ほど慌ててはおらず、彼女は必死に操縦桿を握って機体の立て直しを図っていた。


「えい!」


 掛け声とともに彼女の右足はペダルをしっかり踏み抜く。すると、魔力が消えて止まっていた両翼のプロペラが電力によって回転し始めた。


「よし、よくやった。もう大丈夫だよ。君は大丈夫? 気持ち悪くないかい?」


「はい。ぜんぜん大丈夫。では、ペダルから足を離しても?」


「そうだね。これから君をもうすこし領地から離れた場所に飛ばすよ。一緒にどこまで遠くに行けるかやってみようか?」


 モニークは声だけの俺に振り向くことは無いが、コックピットのガラスに映る彼女の顔の表情は大きく目を見開いた期待そのものしかない。


「はい。一緒にどこまでも、いきます」


 どうしよう。

 ガラスに映るモニークの顔が、結婚情報誌のモデルの表情、つまり、お嫁さんになることを誓いますって顔だと気が付いてぞっとした。

 ただし、城門前に立つ俺の真後ろから襲いかかるエレノーラの殺気にこそゾクリとしているので、俺はモニークにこのまま集中することにした。


「さぁ、俺達の領地を取り巻く荒野を抜けて、人里ではない、西の悪魔の森の上空に行ってみようか。そこで一周した後に、家に帰ろう」


「はい」


 機内のモニークは従順な妻のように俺に答え、城門前の俺の後ろで仁王立ちするエレノーラは、古女房のような声で俺に囁いた。


「家に帰れるもんならね」


 実体の俺は怖くて振り向けなかったので、モニーク機にいる俺の意識で今の俺の状況を見返した。

 俺の後ろにはエレノーラだけでなくモニークが抜けた乙女隊と、アルバートル隊までもが控えていたのだ。だが、俺は仁王立ちで腕を組んでいるエレノーラに恐ろしいと感じるよりも彼女の状態の不思議さに驚いたのだ。


「おや」


「どうしました?」


 俺の戸惑った声にモニークが奇妙に感じたらしい。


「あ、あ。俺のエレノーラが銀色に光って見える。ピカピカしているよ」


「俺の、ですか? 光っている?」


「君には、彼女の纏う光が見えないかい?」


 俺はそこでモニークが乗る飛行機に視点を変えた。上空から周囲をもう一度見回してみたのだ。それで俺に見えていた俺の領地の銀粉のような輝きが、俺の領地の印だったとようやく気が付いた。


 遠くのトレンバーチに遠すぎて見えないエスメラルダなどのディ・ガンヴェルの領地は、黄色の光に包まれている。俺達が明日にでも目指さねばならない小島があるだろう方角は、炎のような真っ赤な輝きをもうもうと煙のように纏っているのだ。


「はは。黒龍ダグドこそ黒か赤だと思っていたがな。銀白のシロロ色だ」


「ダグドさま?」


 俺の目は実体の目による視界の方へと切り替えた。

 そして、空を、はるか彼方に飛んでいるモニーク機を追えば、俺の考えていた通りにその機体こそ銀色に輝いているのである。


「あれは俺の領地の印だ。だから俺は簡単に飛行機から城門前へと、次々に意識を動かせるのか。俺の決めたルール。領地内であれば移動可能。そうか、俺の領地が広がれば、俺はどこにでも力を及ばせられるのか」


 これならば、コントラクトゥスの子供は奪還できる。

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