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ぴゅるぽ!

 大魔導士の召喚によって俺の目の前に出現したのは、レトリーバー犬サイズの、ピンク色でぬるっとした質感のネス湖のネッシーだった。


 がっかりしていた自分どころか、緑色がどこに行ったとつっこみたい。


 不審だらけの俺の目の前にいる、アニメ絵をそのまま実写化したような、いわゆる不快の谷の住人のような竜は、俺に首をもたげると、ぴゅいっと声だけは可愛らしく鳴いた。


「かわいいでしょう。ちょっと本物と違いますけれど。」


 どう違うかどうでもいい程、役に立たなそうな不快な竜である。


「ぴゅるぽ!ぴゅるぽ!」


 俺とアルバートル、そしてアルバートル隊面々が引いている中、当たり前だが子供はそんな気味の悪い生き物に一瞬で夢中になったようだ。

 シロロは勝手につけた名前を連呼しながら纏わりつき、見ているこっちが哀れを感じる程に、竜の背中にどんと乱暴に馬乗りした。


「ぴゅいっ!」


 竜は勝手に消え去り、竜の背中に乗っていたシロロはボトリと地面に転がった。


「ぴゅるぽが!ぴゅるぽ消えた!」


 俺は面倒なので、コントラクトゥスに他に召喚できるものは無いのか尋ねた。

 大体、俺達が雁首揃えて水車小屋の前の野原でこんなこと、コントラクトゥスの召喚術の吟味をしているのは、コントラクトゥスの子供達を救いに行くための戦略を練るためである。

 こんなピンクの不快な竜で終わってはいけないのだ。


「君がクタクタなのはわかるけどね、頼むよ、可愛い奴じゃなくて戦力になるものを出してくれないかな。」


「かしこまりました。これは自分でも嫌なものですが。フォーアラードゥング!」


 ででん。


 月曜日の早朝の街角で見るような、あの吐瀉物にも似た色合いの畳一畳ぐらいの大虫は、強そうでもあるが俺とアルバートル隊の古傷を呼び起こした。


 俺達はしばらく虫というものを見たくは無いのである。


「ははは。本棚に時々いて、私はこの虫がとても嫌いな物でして。」


「いや、紙魚しみだったらサソリを呼び出せよ!似ているけど、あっちのが攻撃力高いだろ!紙魚も気持ち悪いけどさ、実際は弱弱で、すぐ死んじゃうじゃないの!大体どうしてゲロ色なのよ!紙魚だったらシルバーでしょう!シルバーフィッシュってカッコイイ英名だってあるじゃないの!」


「だ、ダグド様。ちょっと、ちょっと、コントラクトゥスさんが泣いていますよ。」


「あ。」


 不幸な人を思い切り罵倒してしまった俺は我が身を呪い、とりあえずコントラクトゥスにゆっくり休めと労ってから、ぴゅるぽ、ぴゅるぽ、と叫ぶ生き物を引きずって居城へと戻った。


 歩きながら、これからどうしよう、という不安ばかりが増していた。


 不可能そうなコントラクトゥスの子供の奪還。


 そして、俺が城で人知れず養蚕していると言う事実。


 俺の布が高値で売れるのは当たり前だ。

 シルクなんだもん。

 この地方は桑が多くて蚕が領地で繁殖していた事と、綿花を紡ぐよりも蚕の繭から糸を取る方が俺には楽だったこともあり、俺は城の内部で蚕を育てている。


 シルクといえば、中世では重さを金で換算されたほどの高価な布地だ。


 これは領民の財産であり、これがあるからこそ外貨を稼げて裕福な暮らしができるのであるのだから、他国にバレぬように領民にも秘密にしているのだ。

 それなのに、俺はしばらく虫が見たくない。

 カイコの世話だけは誰にも任せられないというのに。


 畜生、全てあの陰険虫教皇のせいだ。

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