予想外、否、確信犯、かな①
俺の今いる世界は、俺と友人の考案したものだと認めるのであれば、俺は黒竜ダグド討伐によって引き起こされた世界の破滅の真相を知っている。
勇者達の攻撃魔法とダグドの応戦の結果による水素爆発。
ただし、どんな大きな爆発でも、一国を吹き飛ばすことは出来ても、世界まで滅ぼすことはない。
世界を滅ぼしたのは、爆発によって地殻変動が引き起こされたからだ。
つまり、ドミノが倒れる様に、地震、噴火、あるいは津波、と、あらゆる天変地異が同時に世界各国に起きてしまったのである。
古今東西どの伝承においても、竜が守る場所は地上のかなめと決まっている。
勇者達、と言っても、竜を倒しに来るのは大体は竜が守る財宝狙いだ。
彼等の引き起こした惨劇は、大義どころか名誉欲と強欲でしかないと、彼等が世界を破壊したのだと後の世には語られる。
その原罪を背負った勇者が過去の罪をあがなうために魔王討伐を目指す、というのが中ボス以降のシナリオなのである。
俺の死がゲームの世界での必要事項だとしても、俺はまだ生きていたい。
痛いのは嫌だし、実はこの城をとても気に入っている。
せっかく平和でのどかな世界が壊れるのもやぶさかではない。
そこで俺は自分の右手を勇者達に翳した。
そして、ダグドのMPならばできるだろうという確信と、俺と友人がこの世界の魔法を作ったのであれば使えるはずだという希望を持って、広間中に響き渡る声を上げたのである。
「ホームタウン。」
俺の目の前から勇者も魔女も、魔女の魔法の燃える石もぱっと消えた。
敵から敗走してセーブタウンに戻る魔法だが、俺はそれを自分ではなく彼らに対して使ってみたのだ。
「あ、魔女の魔法も一緒に送っちゃったかな。まいっか。少々街を壊して町民に嫌われた方がシナリオに沿った流れ、かな。」
ふふっと笑いが漏れた。
魔法を使えるって、実は俺にとっては夢だったりもするって思い出したからだ。
「さあて、俺がダグドなら、これからはダグドらしく振舞ってみようかな。」
「させません!」
攻撃的な敵がまるきり何もなくなった広間であったが、どうやら俺は忘れ物をしていたようである。
攻撃力皆無の敵の存在を、だ。
「ありゃ。それじゃぁ君も。ホームタウン。」
俺に手を翳された神官は俺の魔法に対抗するかのようにぐいっと錫杖を突き出し、そして突き出した割には錫杖の後ろに隠れるがごとく小さな体をさらに縮こませた。
その成果なのか、彼は俺の目の前から消えることは無かった。
ほんの少しだけ、俺は慌ててしまっていた。
どうしよう、と。